『望月は人の願いを叶えるというそうだよ』
だから私たちも願おう。
月が満ちるたびに。
此度こそ、広い世に結ばれ、そして添い遂げようと。
褥の睦言にお前が言った。
甲冑を纏い、その美しい唇から一筋、紅を引いたような血を流しながら、俺の腕の中でお前は言う。
『今宵は望月だ……』
だから願いながら逝こう、と。
お前の最期の吐息を聞いたその時、俺の背に熱い一撃が穿たれた。
お前の身体に折り重なるように崩れ落ちながら俺は、そこに、二頭の蝶を見た。
この混乱の最中、この荒さんだ原野にどこから紛れてきたのか。
それは異世界へと俺たちを誘うようにひらりと舞う。
そうだ。
ならばこの蝶にこの想いを託そう。
今宵は望月。
その願いを背負い、時空を越えて、再び俺たちが巡り会えるように。
この記憶が、二人の記憶からなくなってしまったとしても。
結ばれ一つになる日が来るように。
この身が朽ちてもただ、その日を待ち望む。
見上げる空。
その眩い光に向かって、二頭の蝶はどこまでも高く、舞ってゆく。
美しい記憶をこの身に刻んで。
だから私たちも願おう。
月が満ちるたびに。
此度こそ、広い世に結ばれ、そして添い遂げようと。
褥の睦言にお前が言った。
甲冑を纏い、その美しい唇から一筋、紅を引いたような血を流しながら、俺の腕の中でお前は言う。
『今宵は望月だ……』
だから願いながら逝こう、と。
お前の最期の吐息を聞いたその時、俺の背に熱い一撃が穿たれた。
お前の身体に折り重なるように崩れ落ちながら俺は、そこに、二頭の蝶を見た。
この混乱の最中、この荒さんだ原野にどこから紛れてきたのか。
それは異世界へと俺たちを誘うようにひらりと舞う。
そうだ。
ならばこの蝶にこの想いを託そう。
今宵は望月。
その願いを背負い、時空を越えて、再び俺たちが巡り会えるように。
この記憶が、二人の記憶からなくなってしまったとしても。
結ばれ一つになる日が来るように。
この身が朽ちてもただ、その日を待ち望む。
見上げる空。
その眩い光に向かって、二頭の蝶はどこまでも高く、舞ってゆく。
美しい記憶をこの身に刻んで。
「よう七月、久々じゃん」
七月の馴染みのバーで。人待ち顔でマティーニを舐めていた七月に一人の男が声をかけた。
「久しぶり。元気してた?」
柔らかな笑みとともに挨拶を返す七月に見入りながら、男は七月の隣に腰を下ろした。
七月の馴染みのバーで。人待ち顔でマティーニを舐めていた七月に一人の男が声をかけた。
「久しぶり。元気してた?」
柔らかな笑みとともに挨拶を返す七月に見入りながら、男は七月の隣に腰を下ろした。
『で、七月。色校』
「ごめん望木、出来は望木的にどうだった?」
『うん? いい感じにできてんじゃね? 色の出方もいいし』
「じゃあ悪いけど、そのまま通してもいいかな。大井さんのOKもらって先方からもOKもらって……今回だけ、だから」
望木はほんの一瞬驚いたように黙ったが、いつも仕事に真摯な七月の滅多にない頼み事だからか、微かに笑ってわぁったよ、と答えた。
「ごめん望木、出来は望木的にどうだった?」
『うん? いい感じにできてんじゃね? 色の出方もいいし』
「じゃあ悪いけど、そのまま通してもいいかな。大井さんのOKもらって先方からもOKもらって……今回だけ、だから」
望木はほんの一瞬驚いたように黙ったが、いつも仕事に真摯な七月の滅多にない頼み事だからか、微かに笑ってわぁったよ、と答えた。
誰? と問うと、七斗はさぁ、と小さく首を傾げる。七月は差し出されたそれを戸惑いながらも受け取り、電話を耳にあてがった。
「――はい」
『あ、七月?』
何事にも物怖じせず、けれども人に決して高飛車な印象を抱かせることはない、はっきりとした声。聞き慣れたその声の主は、望木だった。
「――はい」
『あ、七月?』
何事にも物怖じせず、けれども人に決して高飛車な印象を抱かせることはない、はっきりとした声。聞き慣れたその声の主は、望木だった。
――知ってた。
二人の想いが重なることなんて、有り得ないと思っていたのに。
七斗にとっても、七月と通じ合えるかどうかは賭けのような奇跡だったはずなのに。
その矛盾にも見える七斗の答えが、けれども七月には理解できた。
きっとそれは、いつか必ず、結ばれ一緒になろうと交わした、劫初からの約束。
二人の想いが重なることなんて、有り得ないと思っていたのに。
七斗にとっても、七月と通じ合えるかどうかは賭けのような奇跡だったはずなのに。
その矛盾にも見える七斗の答えが、けれども七月には理解できた。
きっとそれは、いつか必ず、結ばれ一緒になろうと交わした、劫初からの約束。