「――お前、バカだろ」
「ナツメさんにも言われる」
和大は笑った。
その笑みに、僅かな敗北感のような、悔しさにも似た感情が河辺の心に過ぎる。そして同時に、なぜナツメが変わり始めていたのか、その理由も理解ったような気がした。
信号が青になる。河辺は再びアクセルを踏んだ。
「ナツメさんにも言われる」
和大は笑った。
その笑みに、僅かな敗北感のような、悔しさにも似た感情が河辺の心に過ぎる。そして同時に、なぜナツメが変わり始めていたのか、その理由も理解ったような気がした。
信号が青になる。河辺は再びアクセルを踏んだ。
「今日に限って……俺が行かなかった所為で……っ」
――ナツメは俺を、呼んだのに。
河辺を襲う後悔。己の不甲斐なさに、河辺は奥歯を噛み締めた。
「……ナツメさんはいつも、あんたと会ってたの?」
視線を外から河辺に向けて、和大が訊いた。河辺は和大を斜に見やった。
――ナツメは俺を、呼んだのに。
河辺を襲う後悔。己の不甲斐なさに、河辺は奥歯を噛み締めた。
「……ナツメさんはいつも、あんたと会ってたの?」
視線を外から河辺に向けて、和大が訊いた。河辺は和大を斜に見やった。
「エイジ、あれ出せ」
ヨシヤに言われて、ラインの入った坊主頭の男が、手にしていた袋から小さな瓶を二本取り出した。
一本いいぞ、と顎で示してエイジにそれを持たせ、ヨシヤはもう一本を受け取った。そしてその蓋を開け、何度かの深い呼吸と共にそれを吸い込む。はぁ、と息を吐いて、ヨシヤが僅かに焦点を失った目でゆるりとナツメに向き直った。
ヨシヤに言われて、ラインの入った坊主頭の男が、手にしていた袋から小さな瓶を二本取り出した。
一本いいぞ、と顎で示してエイジにそれを持たせ、ヨシヤはもう一本を受け取った。そしてその蓋を開け、何度かの深い呼吸と共にそれを吸い込む。はぁ、と息を吐いて、ヨシヤが僅かに焦点を失った目でゆるりとナツメに向き直った。
『――はい?』
数コール後、登録にない番号からの着信に警戒しているのだろう、和大が固い声で応答した。
「松田か。河辺だけど」
『河辺? T高の?』
「ん、そう」
『――何の用?』
「ナツメが拉致られたみたいなんだ。探すから手伝え」
『……、……分かった』
一瞬の絶句。和大の気持ちは痛い程分かる。ナツメの危機に、彼の側にいる事ができなかった己への歯がゆさ。それは河辺も同じだった。
数コール後、登録にない番号からの着信に警戒しているのだろう、和大が固い声で応答した。
「松田か。河辺だけど」
『河辺? T高の?』
「ん、そう」
『――何の用?』
「ナツメが拉致られたみたいなんだ。探すから手伝え」
『……、……分かった』
一瞬の絶句。和大の気持ちは痛い程分かる。ナツメの危機に、彼の側にいる事ができなかった己への歯がゆさ。それは河辺も同じだった。
「――はい」
『あっ、ショウちゃんやっぱり居留守使ってたわねっ』
電話の向こうからマスターの野太いオネェ言葉が届く。
「んー、何の用? 俺忙しんだけど」
『ナツメちゃんがちょっとヤバそうなのよ』
『あっ、ショウちゃんやっぱり居留守使ってたわねっ』
電話の向こうからマスターの野太いオネェ言葉が届く。
「んー、何の用? 俺忙しんだけど」
『ナツメちゃんがちょっとヤバそうなのよ』
※微妙ですが15禁くらいで(*´∀`)
「ヨシヤさん、そいつオトコじゃないすか」
運転する男がバックミラー越しにナツメを伺い見る。
「バカお前、今時どっちもヤれねぇでどうすんだよ。それにナツメはそこらのより全然『イイ』ぜ? 俺が済んだらヤらしてやるよ」
なぁナツメ? と耳元で息を吹き掛けながら囁かれ、髪が逆立つような気持ち悪さを堪えてヨシヤを睨み見た。
ヨシヤに言われて男はマジすか、ともう一度、ミラー越しにナツメを見てニヤリと笑った。
――ああ……。
何も考えられなかった。ただあの日、和大がナツメの部屋で選んだピアノの一音が、ナツメの耳に響いていた。
「ヨシヤさん、そいつオトコじゃないすか」
運転する男がバックミラー越しにナツメを伺い見る。
「バカお前、今時どっちもヤれねぇでどうすんだよ。それにナツメはそこらのより全然『イイ』ぜ? 俺が済んだらヤらしてやるよ」
なぁナツメ? と耳元で息を吹き掛けながら囁かれ、髪が逆立つような気持ち悪さを堪えてヨシヤを睨み見た。
ヨシヤに言われて男はマジすか、ともう一度、ミラー越しにナツメを見てニヤリと笑った。
――ああ……。
何も考えられなかった。ただあの日、和大がナツメの部屋で選んだピアノの一音が、ナツメの耳に響いていた。
ナツメは目の前の男をなんの感情も持たない目でじっと見た。
過去に数度、誘われるままに身体を繋いだことのある相手。そして、領域を破って伸ばされた手を拒めないナツメの性を知っている男の一人。名はヨシヤと言った。その誘い方は強引で、身勝手な行為はナツメにただ苦痛を強いるだけだった。
過去に数度、誘われるままに身体を繋いだことのある相手。そして、領域を破って伸ばされた手を拒めないナツメの性を知っている男の一人。名はヨシヤと言った。その誘い方は強引で、身勝手な行為はナツメにただ苦痛を強いるだけだった。
河辺を呼び出した三度とも、河辺はナツメを抱くことなくナツメを部屋に返した。
今までもナツメに決まった相手がいる時には河辺はナツメを抱くことはなかったのを知っていながら、それでも河辺を呼び出し続けたのはきっと、和大への罪悪感を少しでも小さなものにしたかったから。
和大には何も話していない。だから和大はきっと、ナツメが誰かと寝て帰ってきていると思っているだろう。結局それはナツメの中だけの、自己満足にも似た勝手な言い逃れでしかなかった。
今までもナツメに決まった相手がいる時には河辺はナツメを抱くことはなかったのを知っていながら、それでも河辺を呼び出し続けたのはきっと、和大への罪悪感を少しでも小さなものにしたかったから。
和大には何も話していない。だから和大はきっと、ナツメが誰かと寝て帰ってきていると思っているだろう。結局それはナツメの中だけの、自己満足にも似た勝手な言い逃れでしかなかった。
『ナツメお前、そろそろいいだろ?』
「――え」
『松田とヤる度俺呼ぶのも。俺にも……都合ってモノがあんだよ』
「……ん、だね。ごめん」
『松田にフラれたらまた慰めてやるよ』
カラダでな、と冗談口調で笑って、河辺は電話を切った。
「――え」
『松田とヤる度俺呼ぶのも。俺にも……都合ってモノがあんだよ』
「……ん、だね。ごめん」
『松田にフラれたらまた慰めてやるよ』
カラダでな、と冗談口調で笑って、河辺は電話を切った。
「ねぇナツメさん」
和大がナツメを覗き込む。その僅かに潤む瞳を見て、和大は目を細めた。
「キス、していい?」
「……ダメ、だ」
和大がナツメを覗き込む。その僅かに潤む瞳を見て、和大は目を細めた。
「キス、していい?」
「……ダメ、だ」
部屋に着く時刻を少しでも遅らせるかのように。普段はエレベーターを使う三階の自室までの道のりを、ナツメは階段を使ってゆっくりと歩いた。
自室のドアの前に立ち、携帯を開いて時刻を見る。廊下を照らす蛍光灯の薄い光の下で、眩しい程に光るディスプレイは〇時五二分を告げた。
自室のドアの前に立ち、携帯を開いて時刻を見る。廊下を照らす蛍光灯の薄い光の下で、眩しい程に光るディスプレイは〇時五二分を告げた。
「――にしても」
いつの間にか伸びていた灰を灰皿に落として、河辺はようやく二口目の煙草を吸い込んだ。
「俺ならヤんねぇって分かってて俺呼び出した辺り、お前ん中で何か変わってきてるんじゃねぇ?」
「――え?」
「ナツメお前、俺がお前に決まった相手いたらヤんねぇの、分かってんだろ?」
「……、……」
いつの間にか伸びていた灰を灰皿に落として、河辺はようやく二口目の煙草を吸い込んだ。
「俺ならヤんねぇって分かってて俺呼び出した辺り、お前ん中で何か変わってきてるんじゃねぇ?」
「――え?」
「ナツメお前、俺がお前に決まった相手いたらヤんねぇの、分かってんだろ?」
「……、……」
「――で? 俺はなんで呼び出されたの」
ナツメが学生の頃から通う馴染みの店。カウンター数席とテーブルが二つあるだけのその店は、その界隈から少し離れた場所にあるのにそうと知られているらしく、ナツメと同じ嗜好の者が集まる。
ナツメが学生の頃から通う馴染みの店。カウンター数席とテーブルが二つあるだけのその店は、その界隈から少し離れた場所にあるのにそうと知られているらしく、ナツメと同じ嗜好の者が集まる。
中野聡士 : 淳汰と恋人の仲になってちょっと経った。現役バリタチw
山井淳汰 : 元タチ。聡士に流される日々で未だひっくり返せずw
マスター : 筋肉マッチョのオネエ。
*******************************************************
「あらいらっしゃい淳ちゃん、久し振りね」
「うん、そだね。スゲェ久々」
「何飲む?」
「ああうんビール」
「しばらく来なかったってことはあれかしら」
「あ? なに?」
「誰かにロックオンしてたとか? そしてその相手落としてそろそろ飽きてきた頃?」
「違うよてか俺そんなキャラ?」
「何言ってんの今更」
「そっか……今まで付き合ってきた人たちには悪い事したのかな俺」
「ちょっとちょっとどうしちゃったのよ淳ちゃんなぁにあなた」
「や、なんでもねーよ」
「おー淳汰いたいた終わった帰ろうぜ」
「あら、さとチン」
「ちょっとぶりっすマスター今日もイイ腕してんね」
「あら////(←」
「おま……早ぇな俺まだ来たばっか……」
「会社の飲み会なんて一次会出れば充分だよ。淳汰、まだ飲み始め? 残りは俺が飲んでやるから」
「あ、ちょ、おい」
「いーから早く帰ろうぜやっぱお前の顔見たらスゲーヤりたくなる」
「ちょ、おま、たまには余所でヤれって」
「――あぁ?」
「いや俺、また明日も仕事、だし」
「ふーん? ――ねぇマスター、今晩空いてんの?」
「空いてるわよぉ。さとチンのためなら店早く閉めちゃうわぁん」
「……」
「淳汰ぁ、泣くなよ」
「は? 誰が?」
「心配すんなって。もう俺お前でしかイけねぇっつってんじゃん。んな顔するくらいならんなコト言うなよな」
「……、……」
「ちょっとぉ私アテウマなワケ?」
「わは、ごめんマスター。……てワケで淳汰のビール代置いとくね。じゃ。……オラ行こうぜ淳汰」
「あ、ちょ……じゃまた」
「あんたたちもう来なくていいわよっ! んもータチ同士でくっついちゃったのねあの子たち……色んな意味で泣けるわぁ……(ホロリ)」
『聡士×淳汰(タチ×タチ)』
BL妄想劇場(トラコミュ)
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↑ランキング参加中す。よければポチっと押してクダサイ
書く意欲に繋がってます。
脳内垂れ流し(;´Д`)しかもムダに長くてすんませ……(;´Д`)
ちなみにこのバーは慎治とか穂積とかナツメや河辺も行きつけな脳内設定w
山井淳汰 : 元タチ。聡士に流される日々で未だひっくり返せずw
マスター : 筋肉マッチョのオネエ。
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「あらいらっしゃい淳ちゃん、久し振りね」
「うん、そだね。スゲェ久々」
「何飲む?」
「ああうんビール」
「しばらく来なかったってことはあれかしら」
「あ? なに?」
「誰かにロックオンしてたとか? そしてその相手落としてそろそろ飽きてきた頃?」
「違うよてか俺そんなキャラ?」
「何言ってんの今更」
「そっか……今まで付き合ってきた人たちには悪い事したのかな俺」
「ちょっとちょっとどうしちゃったのよ淳ちゃんなぁにあなた」
「や、なんでもねーよ」
「おー淳汰いたいた終わった帰ろうぜ」
「あら、さとチン」
「ちょっとぶりっすマスター今日もイイ腕してんね」
「あら////(←」
「おま……早ぇな俺まだ来たばっか……」
「会社の飲み会なんて一次会出れば充分だよ。淳汰、まだ飲み始め? 残りは俺が飲んでやるから」
「あ、ちょ、おい」
「いーから早く帰ろうぜやっぱお前の顔見たらスゲーヤりたくなる」
「ちょ、おま、たまには余所でヤれって」
「――あぁ?」
「いや俺、また明日も仕事、だし」
「ふーん? ――ねぇマスター、今晩空いてんの?」
「空いてるわよぉ。さとチンのためなら店早く閉めちゃうわぁん」
「……」
「淳汰ぁ、泣くなよ」
「は? 誰が?」
「心配すんなって。もう俺お前でしかイけねぇっつってんじゃん。んな顔するくらいならんなコト言うなよな」
「……、……」
「ちょっとぉ私アテウマなワケ?」
「わは、ごめんマスター。……てワケで淳汰のビール代置いとくね。じゃ。……オラ行こうぜ淳汰」
「あ、ちょ……じゃまた」
「あんたたちもう来なくていいわよっ! んもータチ同士でくっついちゃったのねあの子たち……色んな意味で泣けるわぁ……(ホロリ)」
『聡士×淳汰(タチ×タチ)』
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書く意欲に繋がってます。
脳内垂れ流し(;´Д`)しかもムダに長くてすんませ……(;´Д`)
ちなみにこのバーは慎治とか穂積とかナツメや河辺も行きつけな脳内設定w
煽るつもりで舐めた和大の指先に、舌の腹を撫でられた。粘膜への直接的な愛撫に身体の芯が擽られる。気付いたら、夢中でその指を貪っていた。
火が点いた身体は、和大を下に敷いたことで欲望がその想いごと溢れ出した。和大の頬を掴むように両手で包み、渇きを癒すように唇を求める。和大はナツメに求められるままに己を差し出し、舌で口内の愛撫に応えながら、手は優しくナツメの背を撫でた。決して技巧的ではないのに、和大の舌も手も、ナツメを心ごと溶かしてしまいそうなくらいに甘く優しく、ナツメを高みへと導いてゆく。
「俺、ナツメさんのこと、スゲェ好き」
頬から全身へ、熱が広がってゆく。息が苦しいのは、どうしてなんだろう。彷徨う視線を少し躊躇しながら和大に向けると、そこにはナツメを真直ぐ見つめる和大の瞳があった。
「ナツメさんの気持ちは? 俺にある?」
「あるよ。……今は」
頬から全身へ、熱が広がってゆく。息が苦しいのは、どうしてなんだろう。彷徨う視線を少し躊躇しながら和大に向けると、そこにはナツメを真直ぐ見つめる和大の瞳があった。
「ナツメさんの気持ちは? 俺にある?」
「あるよ。……今は」
六時台のニュースがテレビから静かに流れる部屋で、二人無言で食卓を囲んだ。時折感じる和大の視線。目が合うと渇望が溢れ出してしまいそうで、ナツメは視線を上げることができずにいた。
食事を終え、箸を置いても尚、黙ったままのナツメに和大は変わらない笑みを向けた。
「ナツメさん、思ったより食べてくれたね」
「――旨かった、から。いつもより食った」
「そっか、良かった。また来ていい? ……飯作りに」
「……、うん」
食事を終え、箸を置いても尚、黙ったままのナツメに和大は変わらない笑みを向けた。
「ナツメさん、思ったより食べてくれたね」
「――旨かった、から。いつもより食った」
「そっか、良かった。また来ていい? ……飯作りに」
「……、うん」