2ntブログ

2009年06月

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 ――また雨、か。

 雨。

 野田の過去二度の恋愛で、大きな傷を負った日に降っていた。

 雨が降るたび、それを思い出し、また傷付いて。そしておそらく、また傷つくのだろうかと、恐れる。

 それが野田にとっての、雨の日。

「慎治さんは普段たくさん話すけど、一番肝心な部分はいつも言葉より態度で教えてくれるんだ。家に帰ってよく考えて、あん時、慎治さんがほとんど抵抗しなかったのも……きっと理由(わけ)があると思った」

 ――やっぱり。そうなんだ。

 『抵抗』

 野田がこの言葉を使ったことで把握できた。

「――そん頃の俺は、慎治さんが言った通り今より全然コドモだったから。慎治さんが言ってること、全然意味分かんなくて」

 聞いている限りでは野本にだって理解できない。今聞いたことだけで考えたなら、相手が野田に飽きたか、あるいは新しい相手ができたか。いずれにしても酷い話だと思った。

 ――雨。

 だから雨がダメなのか、と思うと、聞いている野本まで少し、辛くなった。

「そん時俺を見つけて拾ってくれたのが、慎治さんなんだ」

 そしてまた、野田の表情が和らぐ。

 ――ここからは、あてられんのかな。

 それもいい。野田がこのあと本当に幸せだったというのなら。

「――俺ね」

 じりじりと焦らされるような沈黙のあと、野田がようやく話し始めた。

「十一上の兄貴がいるんだけど」
「え? うん」

 ようやく話し始めたと思ったら、いきなりの家族の話。確かに野田に兄がいるというのは初耳だったが、野田の恋愛話を聞くものだと思っていた野本は、不意打ちを食らって戸惑いながら相槌を打った。

「お前、雨がダメなの」

 そのまま話し終えたかのような表情でまたビールを口に運ぶ野田を見て、慌てて次の質問へと移した。

「ん。……もう俺はほんとは、大丈夫なんだけどね」
「あ? どういうことだよ」

 さっき野田が雨がダメだと言ったばかりなのに、その真逆の答えに少し混乱する。野本は、反射的に言葉を返した。

 思わず小さく噴き出した野本にさすがに気付いたらしい野田が、くるりと顔を野本に向けた。

「今日は飲もうな」

 目が合っても何も言わない野田にますます笑って、野本は野田にビールを掲げてみせた。野田はやっぱり無言で一つ、頷いた。

 野田の本質を探るため、と自身に言い訳しながら、彼に声を掛け続けた。そうするうち、彼の無表情が入学すぐの緊張から来るものではなかったということは、すぐに分かった。

 そんな野田にも時折垣間見ることができた表情がある。それはけれども酷く痛そうな表情だった。

「お疲れ」
「うん、お疲れ」

 野本がプルを引いた缶ビールを軽く持ち上げると、野田も手元に置いていた缶ビールのプルを引いて、こん、とそれを合わせた。

 少しずつ流れる時も、振り返ればあっと言う間だったと、尚大との日々を数えて位織は僅かに遠くを見た。

「位織さん、一緒に行かねぇ?」
「……え?」
「ナツメに、紹介するよ」

 行こうよ、と甘えるようなキスが額に落とされる。位織は幸福に目を細めた。

「――随分長く、辛かったんじゃねぇの?」
「――え?」

 箸で摘んだ生麩の田楽を口に運びながら、梁瀬が位織に聞いた。思いがけない問いに顔を上げると、梁瀬は小さく首を竦めた。

「ずっと、心配してたんだよ。特にここ数週間のお前、目に見えてやつれてってたし」
「梁瀬……」
「かと言ってお前、何も言わねぇし」
「……、……」

 翌日。

 昼休憩の時刻になって、位織は梁瀬を食事に誘った。話があるのかと問われて頷いた位織に、梁瀬はそれなら、と個室で食事を取ることができる近くの日本料理屋に行こうと言った。

 夜は接待にも使われるこの店だが、昼は格段に安価で昼膳を供し、かつ料理のレベルは夜同様のため、昼のこの時間帯は女性客も多く見受けられる。

「位織さん、俺のこと……好き?」
「……、ん……」

 もう、戻ることはできない。

 身も心も、尚大に満たされることを知ってしまった今、もし以前の関係に戻りたいと言われたなら。

 ふと目覚めて、位織は辺りを見渡した。そこは見慣れた尚大の部屋。まだ夜が開けていないのか、部屋の中は薄暗い。カーテンから漏れ入る仄かな光も、人工的なそれは外灯の明かりだろう。


すいませんまだまだまだ続いてます『キャラ対話バトン』
前回・前々回はコチラ↓
『キャラ対話バトン』(1)
『キャラ対話バトン』(2)


お付き合いいただける方は↓へドゾー。
今回最後にして一番長いですスイマセン(;´Д`)



※そろそろ15禁でおながいします。





 着たままだった尚大のシャツの裾から手のひらを差し入れ、尚大の背に直に触れた。張りのあるその肌を確かめるように背骨を辿ると、ゆっくりとしなやかに、尚大の背が撓(たわ)んだ。

 僅かに身体を離し、見つめ合う。まだ涙を残す頬をそっと、尚大が拭った。

「……ごめん尚大。俺、重いよな……。それを知られたら、尚大はもう俺のとこに来なくなるかも知れないと思って……」

「うん、ごめん……ごめん位織さん。位織さんが何も言わねぇのを良いことに俺、何も見てなかった……。俺、位織さんにスゲェ甘えてきた」

 尚大が、位織の背を撫でる。その優しい仕草に、今まで感じたことのない安堵のような、穏やかな感情の波が身体中に広がる。心と身体がゆったりと、凪いでゆく。

「尚大」
「……、……なに」
「尚大が、俺のことが必要だって。それさえ言ってくれれば俺は……」

 尚大の心にまで届いて欲しい。

 優しく、言い聞かせるように、言葉を紡いだ。

「尚大が好きだって言ってた、ナツメって子に新しい恋人ができるたび、好きだって言えないままその子を抱くたび、尚大は傷付いて。でもそしたら俺のところに来てくれたからね」
「位織さん……」
「ずっと、それで良かったんだ」
「じゃあなんで……」

 尚大からの連絡を断ったのか。

 どうして今までのままではいられないのか。

 きっと尚大が一番聞きたかったこと。その答えは。

「位織さんはいつでも、こうやって俺を抱き締めてくれてたんだ、よね……」
「尚大……」

 ――そうだよ尚大、俺はいつでも。……尚大を待ってた。

 位織を包み込むことさえできるその長身を。いつも、位織が抱き締めて癒してきた。そして、それが位織の喜びだった。

 俯せのまま肌を床に密着させると、まだ熱を孕んだままの身体にその冷たさが心地好かった。

 疲労と、ここ数週間にも及ぶ不眠で、身体が重い。

 ぼんやりと尚大を見上げると、位織の白濁で濡れた手を拭いもせずに、膝立ちで呆然と位織を見下ろすその視線とぶつかった。

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