誰かに聞いてみるまでもない。
その目元、口元。
この子は間違いなく、山中の遺伝子を受け継いでいる。
「――なんだよ、コレ」
ひとこと呟いて、そっと写真立てを元に戻した。
その目元、口元。
この子は間違いなく、山中の遺伝子を受け継いでいる。
「――なんだよ、コレ」
ひとこと呟いて、そっと写真立てを元に戻した。
特に何のこだわりも感じさせない、ごくありきたりなスチール製の本棚。
ざっと見たところ、剣道関連の雑誌やスポーツ心理学などの書物が並び、いかにもナシノの社員らしいラインナップだ。
上から順に目でタイトルをなぞってゆくと、その中段の端の方に、書物の置かれていない空洞があることに気づいた。
よく見るとそこに、写真立てが伏せて置かれていた。
ざっと見たところ、剣道関連の雑誌やスポーツ心理学などの書物が並び、いかにもナシノの社員らしいラインナップだ。
上から順に目でタイトルをなぞってゆくと、その中段の端の方に、書物の置かれていない空洞があることに気づいた。
よく見るとそこに、写真立てが伏せて置かれていた。
ゆっくりと去ってゆく唇。
うつろな目で、その唇を見送った。
その表情を山中はにんまりと見つめ、名残惜しげに濡れた唇にもう一度、触れるだけのキスを落とした。
うつろな目で、その唇を見送った。
その表情を山中はにんまりと見つめ、名残惜しげに濡れた唇にもう一度、触れるだけのキスを落とした。
「誰しも正しく愛されれば輝いてくるんだよ。見ろよ吉森。最近スゲェ色気出てきてんじゃねぇかよ。それも含めてお前じゃダメだったってことだよ」
「……、そんな……」
山中が、さらに追い討ちを掛けるような言葉をたたみかけた。
突然出された名前にズキリと胸が痛む。
「……、そんな……」
山中が、さらに追い討ちを掛けるような言葉をたたみかけた。
突然出された名前にズキリと胸が痛む。
「俺からしたらお前がこんなエロビさながらに快感に流されちまうよなヤツだったなんて……心配んなったくらいだよ」
「心配?」
一体何が心配なのかと、相変わらずの眉を寄せた険しい表情で山中を見た。
そこには、山中の甘い笑みが大敬を待ち受ける。
その笑みを描く形の良い唇から、えもいわれぬ色気が垂れ流されている。大敬は思わずどきまぎと目を逸らし、不貞た表情で再び俯いた。
「心配?」
一体何が心配なのかと、相変わらずの眉を寄せた険しい表情で山中を見た。
そこには、山中の甘い笑みが大敬を待ち受ける。
その笑みを描く形の良い唇から、えもいわれぬ色気が垂れ流されている。大敬は思わずどきまぎと目を逸らし、不貞た表情で再び俯いた。
「――は?」
「煙草」
「へ?」
「お前吸わねぇもんな。俺の健康のためにも、いい機会だし」
うんうんと鷹揚に頷いて、山中がサイドテーブルに置かれていた煙草の箱を取ったかと思うと、それをくしゃりと握り潰してごみ箱に投げ捨てた。
「煙草」
「へ?」
「お前吸わねぇもんな。俺の健康のためにも、いい機会だし」
うんうんと鷹揚に頷いて、山中がサイドテーブルに置かれていた煙草の箱を取ったかと思うと、それをくしゃりと握り潰してごみ箱に投げ捨てた。
「はいこれ」
「あン?」
手を取られ、握り込まされたのは、ごく普通の形をした鍵だった。嫌な予感に眉を寄せ、目線で山中に説明を求めた。
「いつでも好きな時来いよ」
「は? だから何なんすか、コレ」
「この家の鍵に決まってるだろ。出張費、浮かせられっぞ。昨日みてぇに飲み過ぎて終電逃したっつうよな日にも、ここ使えるとなれば便利で安心だろ?」
承認の判子捺すの俺だしな、と山中は職権乱用も甚だしいことをさらりと言ってのけた。
「あン?」
手を取られ、握り込まされたのは、ごく普通の形をした鍵だった。嫌な予感に眉を寄せ、目線で山中に説明を求めた。
「いつでも好きな時来いよ」
「は? だから何なんすか、コレ」
「この家の鍵に決まってるだろ。出張費、浮かせられっぞ。昨日みてぇに飲み過ぎて終電逃したっつうよな日にも、ここ使えるとなれば便利で安心だろ?」
承認の判子捺すの俺だしな、と山中は職権乱用も甚だしいことをさらりと言ってのけた。