2ntブログ

ドルチェ

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「あっつ……」
「……イテッ」

 キッチン、と呼ぶには狭いワンルームの台所から声が聞こえてくる。航平が台所に立ってから三十分程が経過している。

「大丈夫? 手伝おっか?」

 司が心配そうな表情で台所に向かって声を投げる。十分おきに聞いてこの問いももう三度目だ。

「大丈夫やって、言うてるやろ? もう出来るから」
「……そう?」

 そう答えて再び視線をテレビに戻す。

 二人でなるべく早くと定時目指して早目に退社してきたつもりだったが、気が付けばブラウン管の中で繰り広げられている野球の試合はもう九回表。ゆっくり進行したその攻防戦はもう少しで終りそうだというのに、それ以上の中継は時間の関係でお伝えできません、なんて事をアナウンサーが残念そうに口走っている。

 航平は学生時代、イタリアンレストランの厨房でアルバイトをしていたと言う。「一回俺の腕前を見せたらんとな」と航平が以前から言っていた、それを今夜実行に移したのだ。


「よーっしゃ、できたで」

 その声を合図に司は立ち上がり、航平の元へ駆け寄った。平静を装ってはいたが、実のところ先刻から鼻腔を擽る良い香りに司の食欲が刺激されて居ても立ってもいられなかった。

「おー……」

 狭い作業台に並べられた料理を見るや、司は思わず感嘆の声を漏らした。

 モッツァレラチーズとトマトのサラダに生バジルを使ったジェノバソースのパスタ、先刻から司の食欲をくすぐっていた香りはガーリックトーストだった。品数はそう多くはないが、何よりレストラン仕込みの盛り付けが美しい。

「ど? 見た感じソコソコやろ?」
「ああ、ほんとに。……あとは味だね」

 そんな軽口を返しながら二人で料理を部屋へと運ぶ。一人暮らしの小さなテーブルはあっという間に料理で一杯になった。

 乾杯、とグラスを合わせてワインを喉に通す。ビール派の航平も「今日は気分で」と一緒にワインを飲んでいる。

 味の方も申し分なかった。素材の味を生かした程よい塩味、絶妙なバランスで配合されたハーブ。航平にこんな特技があったとは、と驚く。けれども航平にすごく似合っている。

 ――この特技で何人落としてきたんだろうな。

 ふとそんな思いがよぎって司は一瞬手を止めた。窺うように航平を見ると「旨い?」と問うような視線にぶつかった。司は思わず目を和ませた。過去はどうあれこのイイオトコは今は自分の恋人なのだ。


***********


「……あとはデザートやな」

 全てを食べ終え、満足そうにフォークを置いた司に向かって航平が言った。

「まだ何かあんの?」
「デザートはお前が担当な、って言うてたやん」
「……そうだっけ?」

 司は記憶を手繰り寄せるように宙を見上げたが、心当たりがない。そもそも航平は甘いものを食べない。現に今もデザートなんて本当は欲しいとも思ってないのだろう。食後の一服を吸い始めている。

 ただ、薄い煙越しに時折向けられる視線が無言で司を求めてくる。

 ――言って欲しいんだろうな……。

 二人が付き合って半年が過ぎた。それは司にとっては身体を繋ぐ事を頑なに拒み続けた半年だった。航平も待つと決めたらしく、いつからかあからさまに司を求めてくる事はなくなっていた。

 航平は二人が出会うまでにかなり多くの経験を重ねてきたらしい。それは男女どちらにも及んだとも聞いた。

 司も経験は全くないわけではなかったが、同性はもちろん、女性相手でもさほど多くはなかった。また、誰かを口説いてまでその欲求を満たしたいと思ったこともなかった。それは自分が淡白だからだと思っていた。けれども航平を想った時湧き上がる熱いものを己の身体に感じた時、司は今まで本当に欲しいと思える相手に出会わなかっただけだったのだという事を思い知った。

 本当は司も航平の全てが欲しかった。うっかり身体を繋いで失望されたらどうしよう、という不安と、関係が変わってしまうかもしれない、という恐れが司を臆病にさせていた。

 仕事ができて料理もできる、強引なようで引き際を知る大人の男。どうしてそんな男が自分と一緒に居たい、なんて言ってくれるのだろう。

 いつもどんなに考えても答えが出ない。もちろん航平にはそんな事を言った事はない。何も言わずにただ拒むだけの自分。航平には高飛車に映っているかもしれない。

 考え込んで司は俯いた。

「司、……好きやで」

 航平が呟くように言葉を投げかけた。はっとして司が顔を上げる。こういう時に必ず降ってくる航平の言葉。司はこの一言で身も心も打ちのめされてしまう。
 
 ――伝えなければ。求められているからでなく自分も航平を求めているという事を。

 司はそっと、深呼吸をした。

「デザートは俺、とか……で手打たねぇ?」

 司はやっとの思いでぼそ、と小声で訊いた。

「それは……俺には世界で一番甘いデザートやな」

 航平はに、と笑うと吸い始めたばかりの煙草を灰皿に押し付けた。

「……でも大好物や」

 航平はそっと司に手を伸ばし、イタダキマス、と小声で囁くと、ゆっくりと司に重なって行った。

 航平の重みを受け止めながら、司はこの上なく甘い吐息を漏らした。



おしまい

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

コメント
出た~~~!!
お約束!!
王道の「デザートはア・タ・シ」攻撃!!(新妻限定)
これ!!
これを待っていたのよ!!
「王道」は「陳腐」ではあるが「基本中の基本」。
やっぱ、基本は大事です。
うむうむ。
食欲をそそられました。

私も、この先、そのうち書こうと思っているテーマの中に、気持ちは繋がったけど体の繋がりはまだ、というカップルの葛藤、というのはあります。
異性間ではごく当たり前のことが、同性間ゆえにどうしてもぎこちなく・・・というのは、このジャンルの永遠のテーマの一つですよね。
2007/11/05(月) 14:47 | URL | 平和堂書店 #-[ 編集]
出た~~~
>平和堂書店さま!

ようこそお越しくださいまして!
未熟で稚拙な駄文ばかりですが
大丈夫だったでしょうか、何かアドバイスあればぜひおながいします!
古いものから読んでくださったようで恥ずかしく恐縮ながらとても嬉しいです!

同性ゆえに生じる葛藤は腐の基本的
萌 え ド コ ロ
ココが詳細に書かれてる文は大変切なくわたしの好物でもあります。
見つけるのも描くのもなかなか難しいです。

なになに平和堂サンのキヨラカさんから
進めないカプのお話が読めるのはいつですか!
楽しみにしてますv
2007/11/06(火) 01:30 | URL | ベラ #mQop/nM.[ 編集]
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
この記事のトラックバックURL
http://gerberahybridblog.blog.2nt.com/tb.php/1-f3622f6d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

 | Copyright © がっつりBL的。 All rights reserved. | 

 / Template by 無料ブログ テンプレート カスタマイズ