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じゃじゃ馬ならし(リーマン年上攻)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 Tシャツの裾をたくし上げて、山中の手が大敬の肌に触れる。

 触れられたところを端に、皮膚の下がざわざわと騒ぎ始める。

 それをなんとかやり過ごそうと、大敬はそっと呼吸を止めた。

「いってぇ……ってお前どんだけだよ」

「いやー……滑るな」

「当たり前だろ」

 スケートなんだから、と毒づきながら各々(おのおの)で立ち上がる。

 淳汰は小さい頃からスケートの経験があるため、従来の運動神経の良さも手伝ってそこそこ滑ることができる。

  ――ここが二人っきりの空間なら……。

 珍しく淳汰が優位に立てるこの競技で、手取り足取り。

 上手く滑ることのできない聡士に優しく手ほどきして、初めての体験に疲れてちょっと弱ったところを耳なんか軽く噛んだりそのまま冷たい氷上で服を脱がして抱いたり……

「おい、なんか初心者講習みてーのやるって言ってね?」

「あ、あ?」

 相変わらずの鬱屈した日々からの逃避か、思いがけずやらしい妄想に耽っていたところを、聡士の言葉がさえぎった。

 聡士が指差す先、メインリンクに横に併設されているサブリンクを見ると、わらわらと人が集まりだしている。

 そこへ拡声器を持ったスタッフが、牛を追うカウボーイよろしくすいすい滑って集まった人を整列させ始めている。

「ちょっと行って来る」

「え?」

 言うが早いか、リンクサイドに出た聡士がよたよたとサブリンクに向かいだした。

「――ちぇ」

 講師スタッフの指示なんだろう、集った者全員が、及び腰でよたよたと歩いている。もちろんみんなより頭ヒトツ、いやフタツミッツ大きい聡士もやっている。

「ひとりだけスゲー目立つっつうの」

 遠目で眺めて苦笑する。

 見渡すと、女子の視線がちらちらと聡士に向けられているのに気付く。

「ワリーねソイツ、俺のオトコなの」

 誰に聞かせるでもないが、呟いてみる。

 こんな言葉をさらりとクチに出来るのも、愛されている自信があるからだろう。

 ――満たされてるな、俺。

 苦笑は知らず、柔らかな笑みに変わった。



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聡士×淳汰




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 山中が無言でそっと、大敬の手から缶を抜き取り、後ろ手にそれをテーブルに置いた。

 ゆっくりと、山中の体重がかかるのを感じる。大敬は抗わずにその切ない重みを受け入れ、ゆっくりと床に背を落とした。


「田辺――」

 山中の手が、大敬の頬をすり抜けるようにひと撫でし、そのままふわりと抱きしめられた。

「こう……昔から知ってる幼馴染が幸せそうなんとか見てるとまぁ、良かったな、って思う反面、ちょっと人恋しくもなるってもんだろ?」

 大敬を説得するような、同調を求めるような、大敬のカラダに染み込ませるような声で山中が話す。

 そのまま眉を上げ、目だけで大敬を見る。

「見たんだろ」

 断定した口調で、大敬に確認のように聞いてきた。

「えっと……、あの」

 全て、山中に見透かされていた。

「なんか疑惑の目を向けられてるような気がするな。納得行かねぇ、って表情(かお)だな」

「そんなこと……、まぁ、少し」

 目はクチほどにものを言っていたか、気付かれているのならこの際だから聞いてしまおう。確かに色々納得させて欲しい。させてくれるんでしょうね、と言いたげに、じっとりと山中を見つめた。

 目が合うと、山中はほんの少し目元を綻ばせ、観念したようにふぅ、と小さく息を吐(つ)いた。

「まあ気になるよな、こんな格好だし」

 山中が苦笑しながらスーツを脱ぎ、ハンガーに掛ける。そのままそれを持って一旦寝室に消え、出てきたときには山中はTシャツとスウェットというラフな格好になっていた。

「座れよ。ビール飲むか?」

 冷蔵庫を覗きながら山中が尋ねる。

 酔わせてまた大敬を抱こうとしているのか。

「いや、俺は……」

咄嗟に断ろうと声を返した。

 山中が部屋の鍵を開ける。

 結局片手に大敬の荷物を持った山中のもう片方の腕に抱きかかえられたまま、ここまで連れて来られた。否、山中の有無を言わさぬ様子からして連れ込まれた、と言った方がいいかもしれない。

「田辺」

 玄関に入ったと同時に壁に背を押し付けられ、顎を取られた。

 見つめられ、その瞳の強さに瞬きさえできずに動けなくなる。

 山中が帰ってきたことの安堵より、緊張に足が竦む。動けないまま、山中を凝視した。

 逆光ではっきりとは分からなかった山中のいでたちが、大敬に近づいてくるにつれはっきりと見えてきた。

 ――え?

 山中の服装に、ほんの少しひるむ。

 黒いスーツに、黒いネクタイ。言わずもがな、山中が今まで行っていたところは、法事か、葬儀だ。


 時刻は午後四時。

 大敬は山中の住むマンションのエントランスに立っていた。

 大敬が来てから今まで五分は経っただろうか、人の出入りは一度もなく静まり返っている。インターフォンで山中の部屋番号を呼び出してみたが、返事はなかった。

 反応のないインターフォンを、その向こうに山中を見るように睨みつける。

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