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この夏の行方

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 ゆらゆら、ゆらゆら。ちりん。

 風鈴ってのは案外鳴らないものなんだな。短冊部分はさっきからずっと小さく揺れているのに、音を鳴らすのは、ごくたまにだけなんだあ。

前の住人が残していった風鈴をただぼんやり眺めて、涼はぼうっとそんな事を考えていた。クーラーのないこの部屋は、風鈴の効果もなく、うだるように暑い。さっき風呂に入ったばかりなのに、もう体が汗でねっとりしてきてしまった。煙草を吸って血流を鈍くしてみても、暑いものは、やっぱり暑い。何となくスイッチの入っているテレビの野球のナイター中継も、ずいぶんと遠くに聞こえる。

――どんどん。

「お~い、作長、いるんだろお、シェルの散歩、一緒に行こうぜ」
 同じ大学の篤が玄関の扉を叩く音がする。涼は仕方なくのそりと起き出して、玄関の鍵を開けた。

「暑いから、動きたくない」
「ふっ、ふっ、ふ。これこれ」

 篤はにんまり笑って手にしていたスーパーの袋を涼に手渡した。覗き込むと、アイスとビールが数本入っている。

「お、いいねえ。早速…」

 嬉しそうに手を伸ばす涼の手を、篤が遮った。

「まずはシェルの散歩をしてからな。冷蔵庫に入れとけよ」
「ちぇっ」

 いまいましそうに篤の手から伸びた紐の先を見る。ビーグル犬のシェルはそんな涼の様子を気にもとめず、『涼クンお散歩行こ行こ!』ビームを出しながら、尻尾を千切れんばかりに振り振り涼を見つめている。
篤は大学のごく近くに実家があり、もちろん自宅から通学している。時折、こうして飼い犬のシェルを連れて、一緒に散歩しようと、涼の下宿を訪れる。涼も犬は好きな方で、いつも散歩に付き合うのだが、今日はさすがに暑くて乗り気がしない。



「前期試験、終わったのに、まだ居たんだな」

 アイスとビールの駄賃をちらつかされ、結局散歩に出かけた涼に、河原の土手を二人と一匹で歩きながら篤は尋ねた。

「うん、帰っても別に、することも無いし、こっちでバイトでもしようと思ってる」
「ふ~ん。でも、お前んち、クーラーないじゃん。すっげえ暑いんじゃないの?」
「そうなんだよなあ」

 実家に戻ればクーラーのある快適な暮らしが待っている。それでもここに、残っているのは、少しの期待があるからだ。こうやって篤が自分の部屋を訪れる、その事を。
 だがそんなことを言えるはずもなく、川から吹き寄せる日中よりは少し涼しくなった風を目で追う。

「作長さあ、夏休みのバイト代敷金にしてクーラーのある部屋に移れよ」

 篤がシェルの首輪からリードを外しながら言った。解放されたシェルはたっと勢い良く走り去る。

「暑いとさあ、触れにくいじゃん?」
「……え?」

 暑さの所為か、篤の言葉の意味が分からない。涼は暑さで鈍った頭の回転を心持ち早めてみようとした。……が、やはり分からない。
 目を泳がせて考え込む涼の姿に、篤は苦笑いとともに小さく溜息をついた。そして、「あ~もうっ」と叫びながら、ぺとり、と汗ばんだ腕で、涼を抱き寄せた。

「……な? 暑いと、困るだろ」

 ぼそりと篤が呟いた。じっとり汗ばむTシャツからは篤の体臭がふわりと立ち込める。
 暑くて頭がおかしくなったのは自分だろうか、それとも篤だろうか。夢なのだろうか。夢なら何を言っても平気かな。

「……暑くても、いいけど?」

 ぺとぺとの肌同士がくっつく。もう、どちらの汗かは分からない。あ、夢なら全部自分のか。そう思いながら涼は篤に身を任せる。

「……ホントに?」
「ん…」

 顎を取られた。頚椎を反らされ、篤の顔が近づく。涼は静かに目を閉じた。

――はっはっ。

『なになに~?何してるの~?一緒に遊んで~!』と仲間外れにされていると思ったのか、走り去ったはずのシェルが戻って来て二人の足を小さな肉球で押している。

「あ~くそっ、このバカ犬!! いいところをっ!!」

 ぱっと身体を離して今度は篤が忌々しそうにシェルを睨んだ。
 涼は目を何度も瞬かせた。夢じゃなかったのか?汗でじっとり濡れた身体を風が通り抜け、上がった体温を少し鎮めた。それが涼を現実に引き戻す。

「……確かに」

 篤が舌打ちをしながらシェルの首輪に再びリードを取り付けている。その様子を眺めて涼はくすっと微笑った。

「暑いとホントか夢か分からなくなりそうだな」
 篤はふと手を止め、涼を見てにっと笑う。
「だろ? 俺も協力すっからさ」

 立ち上がった篤は、今度こそ、とシェルを無視してそっと涼の顎を取った。

「クーラー付きの部屋に移ったときはにはさ」

 唇が触れたことで再び上昇した熱にうっすら睫を濡らして、涼は篤を見つめた。

「余計な茶々が入らないように、お前の身一つで来いよな」
「おうともよ」

 力強くそう返事をして、篤は再び涼を抱き締めた。足元でシェルが絡みついてくる。そして、やっぱり、暑くて、現実で無いような気がしてしまう。

「さ、帰ってビール飲もうぜ」
 どちらともなくそう言って、二人は再びクーラーの無い部屋へと向かった。


かくして二人の夏は、ちょっと楽しい予感を孕ませて、バイトに明け暮れる事に決定した。



おしまい

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コメント
夏、好きなんですよ。
夏生まれだから。
暑い盛りに汗びとびとになりながら絡み合うのもまた一興^^

初々しい大学生カップル、新鮮です。
2007/11/05(月) 15:08 | URL | 平和堂書店 #-[ 編集]
最近の温暖化による夏の暑さは
地球規模でとても心配ですが
私も夏はスキな方です。
やっぱり自分の生まれた季節が一番好きになるものでしょうか。
私は9月生まれなのでか秋がやっぱり一番好きです。

この記事は初コメ、嬉しいですあ(・∀・)り(・∀・)が(・∀・)と(・∀・)う!ゴザイマス!
2007/11/06(火) 01:37 | URL | ベラ #mQop/nM.[ 編集]
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