「それでは本日もよろしくお願いします」
「はぁい、ご苦労様です」
生(いくる)は今日も丁寧な一礼と挨拶とともに、スポーツジムをあとにした。
外は雨。
風もなく、まっすぐに降る梅雨の細かな雨粒はしとしとと、静かに地面に落ちる。
傘を差し、営業車に向かう生の濡れた足音が、生の心を濡らす。
「はぁい、ご苦労様です」
生(いくる)は今日も丁寧な一礼と挨拶とともに、スポーツジムをあとにした。
外は雨。
風もなく、まっすぐに降る梅雨の細かな雨粒はしとしとと、静かに地面に落ちる。
傘を差し、営業車に向かう生の濡れた足音が、生の心を濡らす。
「生(いくる)も色々楽しめただろ? 俺も楽しかったよ」
「……、……そっか。栄転だね、おめでとう」
震えそうになる身体から絞り出すことができた言葉は、それだけだった。
「あんまたくさんあるわけじゃないけど、荷物そろそろまとめないとなんねぇし、帰るよ」
来たときと同じ、スーツ姿に戻った田辺は最後に生にいつもの笑みを向け、じゃあな、と一声残して部屋を出て行った。生もそれに笑みで応え、けれども黙ったまま、揺れる瞳で振り返ることのない田辺の背中を見送った。
引き止めることもできないまま。
「……、……そっか。栄転だね、おめでとう」
震えそうになる身体から絞り出すことができた言葉は、それだけだった。
「あんまたくさんあるわけじゃないけど、荷物そろそろまとめないとなんねぇし、帰るよ」
来たときと同じ、スーツ姿に戻った田辺は最後に生にいつもの笑みを向け、じゃあな、と一声残して部屋を出て行った。生もそれに笑みで応え、けれども黙ったまま、揺れる瞳で振り返ることのない田辺の背中を見送った。
引き止めることもできないまま。