見渡せる窓際に陣取りとりあえずコーヒーを頼む。門を見ていないとならないので新聞も読めない。煙草は接客業に就くと決まった大学四年で辞めた。本当に何もする事がない。いや、歩を見つけたら何を言うか、考える暇があると思えばいい。
『やり直したい』――それ以前に始まってもねーし。
『またお前に抱かれたい』――それは絶対違う。できれば抱きたいくらいだし。
『お前を慰めたい』――傲慢、だ。そうできれば良いけれども、本当に俺ができるかは、先日の事もあるから甚だ疑わしい。
『行くな』――次男坊には命令口調は効くかもしれない。本心にも近い。
さまざまな言葉が慎治の脳裏を去来する。でもそんな作戦めいた事を考えていては歩がもう一度心を開く事はないような気がする。俺の方から心を、晒さないと。十年上だというプライドは、この際捨てないといけない……のだろうか。
『お前が愛しい』
「あー…………」
――そうか俺は。歩が愛しいのか。
歩の傷付いた姿は見たくない。あの言葉少なに話す口調。かと言って行動に出てしまったら止まらない強引さ。慎治の胸元で眠った、あの横顔。――できるのなら、自分のものに、したい。
「もうイイ歳なのに何なんだよ俺……」
打ちのめされ、思い知らされる。こんな感情が、自分にもあったのか。
窓の外を見つめ続けて五時間経った午後三時。やっと守衛が門を開け、早くも一人の生徒がその門を出て来た。
「もっと遅くに来ても良かったな……」
苦笑し、立ち上がる。門から目を離さずに会計を済ませ、店を出た。
通りを挟んで向かいから門を潜る学生達を一人一人睨むように顔を確かめる。通りは車が対向で余裕を持って擦れ違える程度の広さで、顔の判別には問題ない。車の通りもそう頻繁でなく、見つけたら逃げ出されない限り渡って掴まえる事もできるはずだ。
そうやって更に待つ事約一時間。時刻は四時前になっていた。
――来た。
歩は友人と歩き、話しかけられ、相変わらずの仏頂面に少しの笑みを乗せてその友人に言葉を返していた。少しくたびれた指定鞄。店で初めて見た時と同じ制服姿。けれどもその表情は、あの時より酷く大人びて見えた。慎治は軽く左右を見て車の波を確認し、道路を渡ると校門を出て十メートルの辺りで歩の前に立った。
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『またお前に抱かれたい』――それは絶対違う。できれば抱きたいくらいだし。
『お前を慰めたい』――傲慢、だ。そうできれば良いけれども、本当に俺ができるかは、先日の事もあるから甚だ疑わしい。
『行くな』――次男坊には命令口調は効くかもしれない。本心にも近い。
さまざまな言葉が慎治の脳裏を去来する。でもそんな作戦めいた事を考えていては歩がもう一度心を開く事はないような気がする。俺の方から心を、晒さないと。十年上だというプライドは、この際捨てないといけない……のだろうか。
『お前が愛しい』
「あー…………」
――そうか俺は。歩が愛しいのか。
歩の傷付いた姿は見たくない。あの言葉少なに話す口調。かと言って行動に出てしまったら止まらない強引さ。慎治の胸元で眠った、あの横顔。――できるのなら、自分のものに、したい。
「もうイイ歳なのに何なんだよ俺……」
打ちのめされ、思い知らされる。こんな感情が、自分にもあったのか。
窓の外を見つめ続けて五時間経った午後三時。やっと守衛が門を開け、早くも一人の生徒がその門を出て来た。
「もっと遅くに来ても良かったな……」
苦笑し、立ち上がる。門から目を離さずに会計を済ませ、店を出た。
通りを挟んで向かいから門を潜る学生達を一人一人睨むように顔を確かめる。通りは車が対向で余裕を持って擦れ違える程度の広さで、顔の判別には問題ない。車の通りもそう頻繁でなく、見つけたら逃げ出されない限り渡って掴まえる事もできるはずだ。
そうやって更に待つ事約一時間。時刻は四時前になっていた。
――来た。
歩は友人と歩き、話しかけられ、相変わらずの仏頂面に少しの笑みを乗せてその友人に言葉を返していた。少しくたびれた指定鞄。店で初めて見た時と同じ制服姿。けれどもその表情は、あの時より酷く大人びて見えた。慎治は軽く左右を見て車の波を確認し、道路を渡ると校門を出て十メートルの辺りで歩の前に立った。
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