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Drivin’ to the …

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 ざーん。

 車のエンジンを止めて初めて自分達がどこにいるか判った。

「ちっきしょー、お前、クソナビ。わざとだろ」

「俺にナビ頼んだんだから、俺の行きたい所に行かせろっての」

 夜中の一時、寝入り端の享一の元に、念願の運転免許とマイカーを同時に手に入れたと、まだたどたどしい運転で泰司が突然やって来た。中古だがスポーツタイプのその車は、前の所有者がかなりのこだわり派だったらしく、足まわりにかなり手が加えられ、一見したところ、初心者が乗っているとは到底思えない。そんな車にとても似つかわしくない、葉っぱのマーク。
「金曜の夜中にこんな車で初心者が山で運転の上達を図りたい、ってほうがおかしいだろ。格好の標的にされるぞ」

 泰司はぐぅ、と悔しそうに享一を睨みつける。

「おっかしいとは思ってたんだ。いくら運転しても山道らしきところを通らないと思ったら」

「ま、いいじゃねぇの。海もまたよし、だろ?」

 享一を無理矢理助手席に乗せ運転する事三時間。運転にまだ余裕のない泰司は享一の言うがままに、のろのろと、だが必死でハンドルを握り続けた。「着いたぜ」の享一の言葉にほっと胸を撫で下ろし、やっとあたりを見回すと、自分が行きたいと思っていたのとは正反対の、一面の海の闇。

 ざーん。

 二人の沈黙を破る波音。かちり、と音を立てて享一が煙草に火を点けた。

「いい加減、眠ぃよ。俺はお前と違って昼間健全に働くサラリーマンなんだぜえ」

 ふうっと煙を窓の外に吐き出しながら享一がぼやく。

「よく言うよ。昼夜逆転してる以外は俺の方がよっぽど健全だね」

 大学で同じゼミだった二人。学生時代はよく一緒につるんで遊び、酒を飲むたび、意味もなく唇を重ねてきた。卒業を期に享一は企業に就職し、泰司はフリーで翻訳の仕事を始め、近頃は連絡もあまり取ってはいなかった。生活のリズムも異なる二人に、もはやつるむ理由は、無かった。

「なあ、波ってのは、すごいな。あんなに弱い波でも、少しずつ、固い岩を削って侵食していってるんだぜ」

 車内にまで吹き込む潮風に髪を少しなびかせて享一が言う。

「俺達も、侵食されるに充分の年月、経ってねぇ?」

 静かなようで鳴り響く波音が耳に痛い。

「お前だって分かってるだろ。そろそろ、つるむには理由が必要なんだ」

 初めて出会ってからもう七年。それぞれの心の波は時に優しく、時に大きく波打ってきた。互いの気持ちを確かめることもないまま、波に晒されてきた、頑丈に造ったつもりの、脆い防波堤。取り壊してしまっても、いいのだろうか。

「……そうだな」

 泰司は運転で疲れた身体をハンドルに預けた。クラクションに腕が当たり、ぷぁっ、という音がして慌てて身を引く。

「ばっか。いいとこなのに」

 享一が鼻で笑った。

 やおら辺りが薄明るくなった。そろそろ日の出の時刻だ。
 新しい二人の関係を照らすかのような、淡い光の中。二人は初めて、意味をもった口付けを交わした。



おしまい



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コメント
こんにちは^^私なんぞのブログにコメントを書いてくださってありがとうございました★リンクも早速貼らせていただきました^^ありがとうございました!これからよろしくお願い致します★
素敵な短編をお書きになられるんですね^^
なんだか続きが気になってしまうような、ドキドキしてしまうような雰囲気です・・・
またお邪魔します★リンクの登録もありがとうございましたm(_ _"m)
2007/08/05(日) 23:41 | URL | ひさめまよ #-[ 編集]
相互リンクありがとうございます~m(_ _)m
カテにカップリングが記載されたものは
続編アリ・シリーズものだったりします。
よろしければまた見てクラサイ。
今後ともよろすくです~
2007/08/06(月) 02:17 | URL | ベラ #mQop/nM.[ 編集]
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