社外恋愛のススメ～コイビトのキス～（10）

「……」
「何か言ってくれないと分かんねぇよ」

　涙声で直登は訴える。

「……直登、おかしい」
「え？　何が？」
「上手すぎ。俺が、初めてじゃないね」
「！！」
「……そりゃあ……」

　――俺も十八歳ですから。先生とこうなれる日に備えて、据膳は喰ってきましたとも。

　要の不機嫌の理由。それが嫉妬だと、要は気付いているのだろうか。ほっとしたと同時に、嬉しさが込み上げる。今まで半泣きだったこともすっかり忘れて、直登は自信に満ちた笑みで要を被っているシーツごと後ろから抱き締めた。

「それは……、先生が俺の事、もう愛しちゃってるから、感じ過ぎちゃっただけなんじゃねーの？　……せんせ、可愛い」

　シーツの中の温度が上がり、要が首筋まで赤面しているのが分かる。

「もう、何も言わなくていいよ。分かったから。俺も、好き。せんせ、大好き」

　直登は静かに要の首筋にキスをした。



　二人がホテルを出た時には辺りはもうすっかり暗闇に包まれ、夜の様相を呈していた。商店はとっくに閉まっている。

「ワイン、買いそびれちゃったじゃん。しょうがないから、今から飲みにいくか」
「せんせ、昨日の今日で、反省の色、全くねーの？　信じらんねぇしっ！　先生はもうあのワイングラスでしか飲んだらだめだよっ」
「じゃあ、入った店でこのグラスで飲むからさ」

　要は今日購入したばかりのワイングラスの入った紙袋を嬉しそうにひらひらさせた。

「だーめだって！　せんせ、酒癖悪いくせに、酒、好きだったんだね！　絶っ対駄目！」
「なんでだよ。お前と一緒なんだから、いいじゃん？」

　要はそれはもう、直登を蕩けさせて何も言えなくなってしまうような極上の笑顔を向けた。

　その夜、要がどれほど酔ったかは、直登しか知らない。


おしまい


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