目覚めた朝のしあわせは（１）

　どれくらい眠ったか分からないけど、まださっき眠りについたばっかりなのに。なんで起こすんだよ……。享一が隣の部屋に寝に行ってから、朝方まで仕事して……仕事して……、あれ、いつ寝たんだったかな……。ま、いいや……。

　泰司は寝返りをうってぎゅっと布団を抱き締めた。

「起・き・ろ」

　頬を引っ張られて寝返りをうったばかりの体の向きを戻される。

「痛てて……、……もう、なんだよぉ……」

　ようやく泰司は薄目を開けた。
　ぼんやりとしていた視界がやっと定まってきて泰司の目に最初に映ったのは、光を背負った享一のどアップ。
　泰司は一気に目が覚めた。

　目覚めてすぐに恋人である享一を目にすることができるのは、まだ夢の続きかと思うくらいの幸せ。けれどもいかんせん生活リズムが異なる二人。平日はいつも泰司が目覚める時にはもう享一は会社へ出かけていて一人ぼっち。享一の部屋に泊まりこんでもうすぐ一ヶ月になろうかというのに、泰司は目覚めてすぐ目に入る享一の姿に未だに慣れないでいた。

　ぱちくりと一度大きく瞬きをして、泰司はぼっと頬を赤くした。

「お……おはよ……」

　火照る頬を隠したくて、もぞもぞとシーツを手繰り寄せる。それを享一が阻止するかのように泰司からシーツを引き剥がした。

「やっと起きたか」

　享一がに、と笑って泰司の唇を啄ばんだ。

「ん……」

　泰司はその唇を受けとめてうっとりと目を閉じた。やがて享一の唇が泰司の頬に移動すると、じん、と残る痛みがぶり返した。

「そういえば！　何もほっぺたつねって起こす事ないだろ？　もっと優しく起こせよ」

　どん、と享一の胸を押して泰司は享一を睨みつけた。

「……散々優しく起こす努力はしたって。それはもう、優しく優しく吸ったり舐めたり」

　そう言って享一はぶすっと泰司の胸元を指差した。

「え？」

　言われて覗き込んだ泰司の胸元には、今しがたできたばかりだと思われる鮮やかな赤い跡が花びらを散らしたように残されていた。

「！！」

　泰司は胸元を見つめたまま絶句した。

　……なんだってこんな恥ずかしい事をよく……。享一がこんな奴だとは思わなかったな。……なんつーか、タガが外れたのか、エ……エロいっつうか……。こういう享一もす……好きだけどさぁ……。

「お前、起きねんだもん。しょうがないだろ」

　絶句する泰司が怒っていると思ったのか、言い訳するかのようにそう言って享一は唇を結んだ。

「だったらもう少し寝させておいてくれればいいじゃんっ。オレは遅くまで仕事して、まだちょっとしか寝てねんだよ！」

　真っ赤になって怒鳴っておきながら、泰司は「たぶん」と心の中で付け加える。
　だってやっぱりまだ眠いし。……眠い、ような気がするし……？

「寝付けなくて三時前に煙草吸いに行ったら、お前はもう机に突っ伏してぐっすりだった。……誰がお前をベッドまで運んだと思ってるんだよ？　そんだけ寝れば充分だろ」
「あ、えーと……」

　あ、やっぱり？　自分で布団に入った記憶がないと思ってたんだよな……。
　てへ、と笑って誤魔化して返す言葉がなくなった泰司の首元に再び享一が唇を寄せてくる。

「痛てっ！　……何？」

　泰司の首元にちくりと刺さる何か。その元をたどると、享一の顎に行き着いた。
　……ヒゲ？　一晩剃らなかっただけで？　オレなんてもう三日も剃ってないのに？
　泰司は珍しいものを触るように享一の顎を指でなぞった。

つづく

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