「享一、前よりヒゲ濃くなってねぇ?」
「……かもな」
享一は、自分の顎を一撫でしてから、その顎を泰司の頬に擦り付けた。
「いったいって! そんなオヤジ臭いことやめろって!」
「……だれがオヤジだよ」
享一が小さく眉をひそめてぴた、と動きを止める。むすっと不機嫌そうに泰司から身体を離した。
「……かもな」
享一は、自分の顎を一撫でしてから、その顎を泰司の頬に擦り付けた。
「いったいって! そんなオヤジ臭いことやめろって!」
「……だれがオヤジだよ」
享一が小さく眉をひそめてぴた、と動きを止める。むすっと不機嫌そうに泰司から身体を離した。
享一の身体が離れて代わりに朝の空気が泰司の肌をすうっとかすめていった。
あ、怒っちゃった? 話題を変えないと。
泰司は伺うような上目遣いで享一を見て訊ねた。
「んで、今何時?」
「十時」
窓辺に置かれた目覚し時計にちらと視線をやって、泰司にも見るよう無言で促す。享一の視線に合わせて泰司も時計に目を向けたが、視力の弱い泰司にはもちろんぼんやりとしか見えない。
「こんなに早く起きて、何すんだよ」
「マンションのモデルルームを見に行く。早く飯食って、着替えろ」
享一はくる、と泰司に背を向けて、「十時で『こんなに早く』なのかよ」とぼやきながらキッチンに向かっていった。キッチンからは鼻腔をくすぐるコーヒーのいい香が漂ってきている。
「マンションのモデルルーム……」
「いくら広めっていっても、ここは一人用のマンションだし、お前が仕事する部屋も要るだろ?」
泰司に背を向けてコーヒーを入れながら享一が言った。襟足を少し紅くして、背中越しに享一が照れているのが分かる。
――そうか。「一緒に住む」って、そういうことだったんだ。
「共に白髪の生えるまで、住むつもりだから。心して見に行けよ」
「……!!」
享一がコーヒーを注いだマグカップを二つ携えてベッドサイドへ戻ってきた。照れていると思っていた享一の表情は、もう普段通りの不敵な笑みだった。マグカップの一つを泰司に手渡し、どかっと床に腰掛ける。
……うっとり。
もう陽の当たる場所にはいないはずの享一がまだ光を背負っているように見える。
享一がそこまで先のことを見据えて自分との付き合いを考えていたなんて。「共白髪」なんて、何気にすごい言葉使ってさ。
なんだか胸が一杯になって涙が溢れそうになる。マグを持つ手が震えそうになるのを知られたくなくて、泰司は両手でぎゅ、とマグを握りなおした。この涙を堪えるにはもう茶化すしか手がない。
「ま、享一はハゲるだろうから、共白髪はむりだろうけどな」
泰司はイジワルそうにふふんと笑って享一を横目で見遣った。
「なにっ!」
カップを床に置き、享一が片眉を上げてがばと立ち上がった。
「帰りに養毛剤買ってやるよ」
「黙れっ!」
享一は、あははと笑う泰司からマグを取り上げて再び頬をつねってそのうるさい口を唇で塞いだ。泰司の頬にまたちくりと短いヒゲが刺さる。
「だから! 痛いって! ハゲっ」
目覚めのしあわせ、ってこんな感じ?
ばたばたと暴れて大笑いするフリをして、泰司はぽろっと一粒、涙をこぼした。
おしまい
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あ、怒っちゃった? 話題を変えないと。
泰司は伺うような上目遣いで享一を見て訊ねた。
「んで、今何時?」
「十時」
窓辺に置かれた目覚し時計にちらと視線をやって、泰司にも見るよう無言で促す。享一の視線に合わせて泰司も時計に目を向けたが、視力の弱い泰司にはもちろんぼんやりとしか見えない。
「こんなに早く起きて、何すんだよ」
「マンションのモデルルームを見に行く。早く飯食って、着替えろ」
享一はくる、と泰司に背を向けて、「十時で『こんなに早く』なのかよ」とぼやきながらキッチンに向かっていった。キッチンからは鼻腔をくすぐるコーヒーのいい香が漂ってきている。
「マンションのモデルルーム……」
「いくら広めっていっても、ここは一人用のマンションだし、お前が仕事する部屋も要るだろ?」
泰司に背を向けてコーヒーを入れながら享一が言った。襟足を少し紅くして、背中越しに享一が照れているのが分かる。
――そうか。「一緒に住む」って、そういうことだったんだ。
「共に白髪の生えるまで、住むつもりだから。心して見に行けよ」
「……!!」
享一がコーヒーを注いだマグカップを二つ携えてベッドサイドへ戻ってきた。照れていると思っていた享一の表情は、もう普段通りの不敵な笑みだった。マグカップの一つを泰司に手渡し、どかっと床に腰掛ける。
……うっとり。
もう陽の当たる場所にはいないはずの享一がまだ光を背負っているように見える。
享一がそこまで先のことを見据えて自分との付き合いを考えていたなんて。「共白髪」なんて、何気にすごい言葉使ってさ。
なんだか胸が一杯になって涙が溢れそうになる。マグを持つ手が震えそうになるのを知られたくなくて、泰司は両手でぎゅ、とマグを握りなおした。この涙を堪えるにはもう茶化すしか手がない。
「ま、享一はハゲるだろうから、共白髪はむりだろうけどな」
泰司はイジワルそうにふふんと笑って享一を横目で見遣った。
「なにっ!」
カップを床に置き、享一が片眉を上げてがばと立ち上がった。
「帰りに養毛剤買ってやるよ」
「黙れっ!」
享一は、あははと笑う泰司からマグを取り上げて再び頬をつねってそのうるさい口を唇で塞いだ。泰司の頬にまたちくりと短いヒゲが刺さる。
「だから! 痛いって! ハゲっ」
目覚めのしあわせ、ってこんな感じ?
ばたばたと暴れて大笑いするフリをして、泰司はぽろっと一粒、涙をこぼした。
おしまい
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コメント
リンク、ありがとうございました♪
早速貼らせて頂きました!
読み応えのある短編ばかりで楽しい限りです。
そして関西弁が!
いいですねえ~♪
ちょくちょく遊びに参ります。
更新、楽しみにしています☆
早速貼らせて頂きました!
読み応えのある短編ばかりで楽しい限りです。
そして関西弁が!
いいですねえ~♪
ちょくちょく遊びに参ります。
更新、楽しみにしています☆
イチゴさん
お越しいただきありがとうございましたm(_ _)m
リンクも貼っていただきありがとうございます!
関西弁は地雷の方もいるかな~と思いつつ
私が関西者なので
どうしても使ってしまいますw
イチゴさんには気に入っていただけたようで
嬉しいですv
どうぞまたお越しくださいv
今後ともどうぞよろしくお願いします~
お越しいただきありがとうございましたm(_ _)m
リンクも貼っていただきありがとうございます!
関西弁は地雷の方もいるかな~と思いつつ
私が関西者なので
どうしても使ってしまいますw
イチゴさんには気に入っていただけたようで
嬉しいですv
どうぞまたお越しくださいv
今後ともどうぞよろしくお願いします~
2007/08/12(日) 09:51 | URL | ベラ #mQop/nM.[ 編集]
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