Sister Moon（17）（R15)

　酸素を求める身体。

　耐えきれず、ぐ、と喉を鳴らして喉奥に溜まったものを嚥下した。咳込むと、深井はゆっくりと唇を離した。

「はぁ、はぁ……」

　荒い呼吸に肩を上下させながら、何を飲ませたんだと、手枷の嵌められた腕で口元を拭い、無言で問いかける。

「催淫剤のようなものです。たいして強いものではありませんよ。三日も耐えれば身体からは抜けます。賢明な君なら中毒になるような真似はしないでしょう？」

　――三日。

　三日なら、たいして苦しまずに乗り越えることができるだろうか。ニコチンで三日と聞く。つまり、その程度の毒性ということだ。

　その気になればどこまでも堕ちてゆける世界で、慎治が守ってきた唯一の砦が、意図を持ったたった一人の男にいとも簡単に崩される。

　どう足掻いても、結局は闇に引きずり落とされてしまうのか。

　所詮これが、自分の生きる道。

　これが、自分の生きる世界。

　そしてこれが、自分。

　小さく、深呼吸をした。

「……っ、……」

　突然、部屋の灯りが眩（まばゆ）い程に明るく感じる。

　脈打つ心臓の音が、鼓膜を震わせるほどに強く響き始める。

　痛かったはずのシーツの硬い感触が、ざわざわと擦れて肌から内側の官能を呼び寄せる。

　効いてきた、と絶望とも諦めともつかぬ思いで、慎治は小さく唇を噛んだ。


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歩×慎治



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