雨がやんだら（12）

「あなたね、この店でそういうの頼むのイイ加減やめなさいよ」

　カウンターの中にいるカモフラ軍パンにランニングシャツの屈強そうな……オネエに睨まれる。

「なんでよ。今更じゃん」
「ま～っ！　可愛いくないわっ！　自分で注文しなさいっ！　持ち込み料取るわよっ」
「へーへー」

　電話番号表を突き付けられ、渋々自分で店屋に注文の電話をする。

　一人で部屋に居たくない時に来る所がこの店な自分はどうかとも思うが、何も隠す必要のない場所に居るとやはり安らぐ。自分から公表してはいないものの、一般人に対しても訊かれれば特に隠し立てせず自分の嗜好を認める慎治でもそうなのだ。――歩は。

　誰かに話したのはきっと昨日が初めてだっただろう。一人じゃない、と分かっただろうか。

「……やり方知ってたくらいだからどっかで情報収集くらいやってるか……」
「なになに何の話よ？」

　他の客の相手を終えたマスターが慎治の独り言に首を突っ込んできた。

「ん～……どっかに悩みが解決されても俺から去ってかねぇ可愛いのが居ねーかなーと思ってさ」

　早くも届いたカツ丼の代金を出前持ちの青年に渡しながら肩を竦めて答える。青年にはしっかり「歳幾つ？」と声をかけ、「ハタチっす」との答えに「あーそーイイねー帰り気つけてねー」などと言葉を投げ掛けて青年を見送る。

「……あんたね。また逃げられたの？」
「またって……んなしょっちゅうみたいな言い方しなくてもいーだろ」
「しょっちゅうじゃないのよ」
「うっせ」

　睨み付けて、カツ丼をガッつく。

　――っつうか、逃げられるって前に捕まえる事すらできなかった、ってぇの。

　そんな慎治をマスターが白い目で見遣る。

「慎チンさぁ、逃げてく相手引き止めた事あるワケ？」
「慎チン言うな」

　まだ何か言っているマスターを丼を持ち上げかき込んで視界を遮る事で無視をする。

　――今度歩に会ったら。……引き止める？　引き止めてどうすんだ。好きだと言う？　――っつーか、……好き？

　――まさか……な。そんな感情を持つには問題が多過ぎる。そもそも俺は歩の何も知んねぇじゃん。

　ふと止めた手。過ぎった考えを断ち切るように一度首を振り、そして再び丼を平らげる作業に戻った。




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