Sister Moon（29）（R18)

「ああ楽しいさっ。どのみち満たされることなんてないのなら、それならこうやってウサのひとつも晴らせば少しは気分も良くなるというものだっ」

　追い詰められた者の目で、深井が蝋燭を一息に傾けた。粘膜を焼くような痛みが、慎治の熱に更なる熱を注ぐ。溶けた蝋が蝋燭の芯に触れ、一筋の煙を残して火が消えた。

「せっかくだから、徹底的にやらせてもらうよ」

　消えた蝋燭を床に転がして、駆け戻るようにトランクへと走った深井が再びにやりと笑った。そこからゆっくりと取り出したのは、細長く、しなる棒の先に革が張り付けられたもの――乗馬用の、鞭だった。

　一目見て本物と分かるしっかりとした作りは、ここまで使われてきたプレイ用のものとは明らかに異なる。手加減なく打たれれば、肋（あばら）ぐらいならひとたまりもなく折れてしまうだろう。

　それさえ今のこの身体なら、快感だと感じるだろうか。

　その痛みから寄せられる快感を思うと、どこか恍惚とした気分にさえなる。

　打つなら打てよと、目を閉じた。

　その時。

　玄関ドアのごく一般的なチャイム音がインターフォンから響き、この部屋への来訪者を告げた。

　弾かれたように二人、玄関に目を向けてドアの向こうの見えない相手を見る。

「深井さんすいませーん。Ｓ警察署のものですが。ちょっと開けてもらえませんかー」

　緊迫した室内とは対照的に、どこかのどかにも聞こえる声が二人の元へ届く。けれども紛れもなく聞こえた「警察」という単語。そののどかさは、拒絶や無視をすると強硬手段に出ることもできるという余裕を却って中の二人に感じさせた。

　深井が小さく舌打ちをして、手にしていたものをトランクに戻した。



←28へ　/　30へ→
←１から読む
歩×慎治



にほんブログ村
↑ランキング参加中す。よければクリック入魂一押ししてください。
　書く意欲に繋がってます(*´∀｀)
携帯からはポイント反映されないことがあるようです（090907現在）
ぜひパソからの一押しお待ちしてます(*´∀｀)