Sister Moon（30）（R18）

　警察より何より、深井が鞭を置いたことで、いつの間にか頂点まで緊張していた全身からふと力が抜ける。歯の根が合わずに、唇を震わせながら息を吐いた。

　深井は予定外のこの状況をどうしたものかと焦っているのか、両手を広げて自らを見下ろした。

「深井さーん。いるのは分かってるからぁ」

　外からはのんびりとした声がまた、深井に圧力をかける。

　ちらりと慎治に目を向けて、足元にたたんで置かれていたシーツを鷲掴んだ深井は、それを広げて慎治の首から下に掛けた。隠蔽のつもりなのだろうか、けれども明らかに不自然なその凹凸は、見る者誰もが怪しいと感じるだろう。それは深井の動揺そのもののようだった。

　騒ぐなよ、と釘を刺すように慎治を一瞥し、深井が玄関へと向かう。

　鍵のシリンダーが回る音。

　かちゃりと、ドアが開く音。

　そのあとすぐ、がしゃりと、チェーンが張り詰める音が慎治の元にまで届いた。

「チェーンを開けろっ」

　先刻とは打って変わった緊迫した声と一緒に、慎治、と名を呼ぶ叫び声と、先生、と深井を呼んでいるらしい声が部屋に響いた。

「っ、ぅ……」

　助けが来ている。今の声は、おそらくマスターのものだろう。

　今、一体何時なのだろう。

　店は、どうしたのだろう。

　霞の掛かった思考でぼんやり考える。

　するとどういう経緯があったのか、急に玄関口が騒がしくなった。と同時にどかどかと遠慮のない足音がして、部屋の入り口にマスターの姿が見える。彼は土足のまま、慎治の元へと駆け寄ってきた。



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歩×慎治



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