雨がやんだら（23）（完）

　言葉少なく電話を終えると、脱いだ服を掻き集めて慎治の横に戻ってきた。

「慎治さんの店の辺りに迎え来てくれるっつってるから、帰るよ」
「迎え？　誰が？」

　当たり前のようにごく自然な流れで歩に服を着せてやりながら問う。

「兄貴」
「――は？　一緒に住んでんの？」
「二世帯」
「へ～……」

　歩に服を着せ終え、自分の服を着込みながら歩が家で置かれた状況を呆然と考える。

「つーかお前……兄ちゃん新婚だろ……」

　生温かい視線で歩を見ると、歩は少し悪戯っぽく笑った。

「この次男坊め……。兄ちゃんに俺の事知られたら俺殺されんじゃねーの……？」

　たっぷり甘やかされて育った歩。甘やかし甲斐がありそうだ、と苦笑いを作ってその頬を拳で押した。

「大丈夫だから」

　柔らかい笑みに戻して歩が慎治にキスをする。慎治は軽く触れるだけのそのキスを擽ったそうに受けた。

「大丈夫って、何がだよ」
「俺も、慎治さんも」
「……そか」

　――歩は、そして俺は大丈夫。

　何故か酷く納得した。立ち上がると、歩の手を取って歩を立たせた。

「俺飯食い行くから。途中まで送るよ」

　財布と携帯をポケットに突っ込み、歩の鞄をほら、と手渡す。俺も車買うかな、などと呟きながら玄関へと向かい歩が出るのを待つ。

　靴を履いた所で歩に抱き締められた。

「慎治さん、俺の事見つけてくれて、……ありがと」

　優しく気持ちが満たされる。抱き締め返し、ぽんぽん、と背を叩く。

「もう雨ん中泣かなくて済みそ？」
「うん」

　目に飛び込む、歩の雨上がりの笑顔。

　――歩の笑顔をずっと見ていられるように。

　祈るような気持ちで、慎治は歩に口付けた。



おしまい


終わりましたー。長らくおつきあいありがとうございました！
慎ﾁﾝが今からごはん食べ行く所はあのマスターの店に違いないとか思いつつ。


「雨がやんだら」最初から読む→

↓よければポチっと押してクダサイ