「やぁーっと来たでぇ! うみ~~!!」
良充はぱぱぱっとTシャツと短パンを脱ぎ捨てた。中に水着を着ていた良充は、あっという間に泳げる態勢になった。
中三の二人は、塾の夏期講習のため、夏休みに入っても、今まで海には来ることができなかった。やっと終わった夏期講習。懐かしい海の匂いに開放感もひとしおだ。
良充はぱぱぱっとTシャツと短パンを脱ぎ捨てた。中に水着を着ていた良充は、あっという間に泳げる態勢になった。
中三の二人は、塾の夏期講習のため、夏休みに入っても、今まで海には来ることができなかった。やっと終わった夏期講習。懐かしい海の匂いに開放感もひとしおだ。
「お前も、早よ着替えろやぁ、早よ、行こうや」
「お前、パンツ忘れてんのとちゃうやろな」
水着に着替える為、腰にタオルを巻きつけた啓輔が眇目で良充に聞いた。
「えっ? ……忘れた。……ま、ええやん。パンツはかんと帰るわ」
中に水着を着込んできた時のお約束の忘れ物も全く気にする様子もなく、良充はあっけらかんと笑った。
「なんやお前……」
水着に着替え、Tシャツに手を掛けた啓輔を、良充が羨ましそうに眺めた。
「どんどん大きなりよんなぁ。帰宅部やったのに、何でお前だけやねん。くっそ~」
「それはデカなりたい、っちゅう想いの差ってもんやろ」
啓輔は少し誇らしげに良充を見下ろした。
良充はぐっと唇を噛んだ。
――なんでやねん。俺なんか七夕の願い事にも書いたのに。「背が伸びますように」って。啓輔なんか、一枚も願い事書かへんかったのに……。七夕の神様は願い事ちっとも聞いてくれへん。ん? ……でも七夕の神様って誰や? だいたい、そんなん、おるんか?? ……そしたら俺の他の願い事も、聞いてもらわれへんのんかなぁ……。
悔しそうに上目使いで自分を見つめる良充を見て、啓輔はふっと優しい笑みを漏らした。
「大丈夫やって。お前はお前でええとこあるやん。それに、高校入ってから伸びるかもしれんやろ?」
「俺のええとこって何?」
「……え? ……そりゃあお前……」
――そういう可愛いとことか……。……あかん、それ言ったら絶対怒りよる。
結局啓輔は、何も言えず黙ってしまう事となった。
「みてみぃ! 別にないんやんっ! 俺はお前と……」
――同じ目線でいたいだけや。同じもん見てたいんや。解かれっあほっ!
二人の間に妙な空気が流れた。啓輔は発展途上の骨ばった手で口元を押さえた。その手に、啓輔と自分との距離を見せ付けられた気がして、良充はかっと身体を熱くした。
「お前なんか、くらげに刺されてまえっ」
良充はそう言い捨て、たっと海へと走り去った。
「……失敗したな……」
一人取り残された啓輔は、くしゃくしゃと頭をかいた。
――俺、お前には絶対勝たれへんねんから、背くらい勝たしといてくれや……。
ばしゃばしゃと怒りの水飛沫を上げて海に入る良充を眺めて、啓輔は小さく溜息をついた。
「……せっかくやし、俺も海に入るか」
「良充~待てや~」と間延びした声で遠くの良充を呼んで、啓輔も海へと向かった。
「げ~い~ず~げ~、いだい~」
結局くらげに刺されて泣きを見たのは良充だった。
盆を過ぎた夏の終わりの太陽と海が、笑って二人を見守っていた。
おしまい
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「お前、パンツ忘れてんのとちゃうやろな」
水着に着替える為、腰にタオルを巻きつけた啓輔が眇目で良充に聞いた。
「えっ? ……忘れた。……ま、ええやん。パンツはかんと帰るわ」
中に水着を着込んできた時のお約束の忘れ物も全く気にする様子もなく、良充はあっけらかんと笑った。
「なんやお前……」
水着に着替え、Tシャツに手を掛けた啓輔を、良充が羨ましそうに眺めた。
「どんどん大きなりよんなぁ。帰宅部やったのに、何でお前だけやねん。くっそ~」
「それはデカなりたい、っちゅう想いの差ってもんやろ」
啓輔は少し誇らしげに良充を見下ろした。
良充はぐっと唇を噛んだ。
――なんでやねん。俺なんか七夕の願い事にも書いたのに。「背が伸びますように」って。啓輔なんか、一枚も願い事書かへんかったのに……。七夕の神様は願い事ちっとも聞いてくれへん。ん? ……でも七夕の神様って誰や? だいたい、そんなん、おるんか?? ……そしたら俺の他の願い事も、聞いてもらわれへんのんかなぁ……。
悔しそうに上目使いで自分を見つめる良充を見て、啓輔はふっと優しい笑みを漏らした。
「大丈夫やって。お前はお前でええとこあるやん。それに、高校入ってから伸びるかもしれんやろ?」
「俺のええとこって何?」
「……え? ……そりゃあお前……」
――そういう可愛いとことか……。……あかん、それ言ったら絶対怒りよる。
結局啓輔は、何も言えず黙ってしまう事となった。
「みてみぃ! 別にないんやんっ! 俺はお前と……」
――同じ目線でいたいだけや。同じもん見てたいんや。解かれっあほっ!
二人の間に妙な空気が流れた。啓輔は発展途上の骨ばった手で口元を押さえた。その手に、啓輔と自分との距離を見せ付けられた気がして、良充はかっと身体を熱くした。
「お前なんか、くらげに刺されてまえっ」
良充はそう言い捨て、たっと海へと走り去った。
「……失敗したな……」
一人取り残された啓輔は、くしゃくしゃと頭をかいた。
――俺、お前には絶対勝たれへんねんから、背くらい勝たしといてくれや……。
ばしゃばしゃと怒りの水飛沫を上げて海に入る良充を眺めて、啓輔は小さく溜息をついた。
「……せっかくやし、俺も海に入るか」
「良充~待てや~」と間延びした声で遠くの良充を呼んで、啓輔も海へと向かった。
「げ~い~ず~げ~、いだい~」
結局くらげに刺されて泣きを見たのは良充だった。
盆を過ぎた夏の終わりの太陽と海が、笑って二人を見守っていた。
おしまい
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コメント
いちごさん
拍手&コメありがとうございました~!
一つの事をすると一つ忘れる常習はココにもいます(挙手)
名前は私のいとこから拝借www
またお越しくださいませませ
拍手&コメありがとうございました~!
一つの事をすると一つ忘れる常習はココにもいます(挙手)
名前は私のいとこから拝借www
またお越しくださいませませ
お盆過ぎの海はくらげに気をつけませう。
て、気をつけてても刺されるものは刺されるべ。
んでもって刺されると痛いべ。
西炯子つう人の漫画で、「僕は鳥になりたい」ちゅうのがあったですよ。
なんで鳥だけが飛べるようになったんやろうね、っていう問に対して、「きっと、他の何よりも飛びたいって願ったんだよ」という答えがありました。
夏期講習か・・・
ふう。
て、気をつけてても刺されるものは刺されるべ。
んでもって刺されると痛いべ。
西炯子つう人の漫画で、「僕は鳥になりたい」ちゅうのがあったですよ。
なんで鳥だけが飛べるようになったんやろうね、っていう問に対して、「きっと、他の何よりも飛びたいって願ったんだよ」という答えがありました。
夏期講習か・・・
ふう。
2007/11/06(火) 17:22 | URL | 平和堂書店 #-[ 編集]
昔に私も西サンの漫画は読んだような
記憶があります。
なんかカスりそうでカスらないそのフレーズ…
手に入るなら読んでみようかな。
キリンの首が長いのも、
ゾウの鼻が長いのも、
ウサギの耳が長いのも、
きっと同じ理由……ですよね?
記憶があります。
なんかカスりそうでカスらないそのフレーズ…
手に入るなら読んでみようかな。
キリンの首が長いのも、
ゾウの鼻が長いのも、
ウサギの耳が長いのも、
きっと同じ理由……ですよね?
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