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ソーダ水の泡と、僕等の夏(2)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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「……俺、まだちゃんと言ってなかったよな」

 篤が飲み干したビールの缶をくしゃりと握りつぶした。

「涼、好きだよ」

 篤が初めて涼を名前で呼んだ。


「……それって……お前んちのシェルより……?」
「だぁ~っ! 何言ってんだ、お前っ」

 篤は涼をぐいと引き寄せ、その腕に涼を取り込んだ。

「だ~れが、自分ちの犬の方が好きだなんて言うんだよっ。人の決死の告白、茶化す気か?」

 篤が初めて涼を抱き締めたのは、この夏の初め。あの時と比べて随分涼しくなった。でもこうやって抱き締められると、やっぱり夢か現実か、分からなくなってしまう。あれは、暑さの所為じゃなかったのか……。

「……嘘みたいだ…」

「だれがこんな事、嘘言うかよっ。お……お前は、どうなんだよっ」

 篤の鼓動が涼に伝わってくる。思った以上に早いその鼓動を感じて、篤の言葉に嘘はないんだ、と涼は実感した。

「俺も、好きだよ。篤……」

 そう答え、煙草を空き缶の灰皿にぎゅっと押し付けて、涼も篤の首に腕を回した。

「涼……」

 篤が涼を横たえようと、床に手をついた。汗を滲ませる篤の首から涼の腕が滑り落ち、涼が床に頭をしたたか打ち付けた。

「わっ! 大丈夫かっ?」

 慌てて篤が涼を覗き込む。

「……ぷっ」

 涼は、篤の慌てぶりに思わず吹き出した。

「……やっぱりもう少しの間、クーラーが要りそうだな。……続きは、やっぱ、クーラーのある部屋の方がいいかな」

 ぶうっと篤が唇を尖らせる。

「今日は飲み放題なんだろ? 焼酎、飲もうぜ」

 気を取り直して、涼が篤をなだめるように言った。

「サイダー、冷蔵庫に入ってるから、取って。今晩中に飲んでしまわないと」

 まだ少しぶうたれながら冷蔵庫へ向かう篤の背中を眺めて涼は笑みをこぼした。

「……涼、このサイダー、いつ開けた?」
「……忘れた」

 もしかしたら、夏休み前かもしれない。寝食惜しんでバイトに明け暮れたから、冷蔵庫もろくに覗きもしなかった。冷蔵庫にサイダーを入れていたのは覚えていたけど、いつ開けたかなんて。

「気、完っ全に抜けてるぞ。これじゃ砂糖水だ」

 一口含ませた篤は、ぺっぺっと舌を出した。

「……んじゃ、買いに行くか」

 暗いのをいいことに、二人は手を繋いで部屋を出た。

 力強い篤の手が、明日からも涼を引っ張って行ってくれるだろう。

 蚊取り線香と一緒にぐるぐる回って消えていったソーダ水の泡。それと一緒に消えた二人の夏。けれど、明日からの二人には、泡のなくなったソーダ水みたいな生活が待っている。

 それは、ただ甘いだけ。



おしまい


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コメント
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2007/08/26(日) 01:28 | | #[ 編集]
う~ん、いいねえ。
つまり、これは、「気の抜けたサイダーってただ甘ったるいだけの水だよね」っていう、日常的な些細な発見を契機として書かれた作品なわけでしょ。
こういう、小さい宝石の屑みたいな発見を、丁寧に拾い上げて、磨いて、たとえばペンダントトップにしてみたり、指輪にしてみたり。
そういう、ジュエリーの雰囲気があるのね、ベラさんの作品群って。
小さい発見を見落とさず、すぐには作品化しないで温めたり、心のどこかにかりそめに置いておいて、あ、このテーマと絡めたらきれいかも、という折に、過たずぴたっと当て嵌める。
こういうことは、センスのなせる技だと思います。
感服いたします。
2007/11/07(水) 14:34 | URL | 平和堂書店 #-[ 編集]
>平和堂書店さま!
またまたお褒め頂き嬉死すwwww
こちらは以前「サイダー」でお題を頂いて書いた文なので
何日か頭がサイダーでイッパイだったことを思い出しますwwww
ただも萌えの赴くままに描いてますので
自分の文はすごく浅い…と思ってますので
本当に嬉しいです。
感服だなんて…㌧でもナイっす!
2007/11/07(水) 21:38 | URL | ベラ #mQop/nM.[ 編集]
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