社外恋愛のススメ～初任給の使い道～1/4

　要は社会人二年目のまだまだ下っ端。総務部の不動産担当である要の元には不動産会社の者が訪ねて来ることは時折あるが、アポなしで、しかもこんな時間帯に来ることはまずない。

「うっふっふ。なんか、すっごくかっこいい男の子。飯田クン、って言ってたわよ。いい目の保養になったわぁ」

　取次ぎをした女性社員がうきうきした様子で言う。

「いいだ……？」

　要は心のアドレス帳を繰る。思い当たるのは一人。

「なおと……かな？」

　要が大学三年生のとき、高校一年生だった飯田直登だ。当時家庭教師をしていた要の、何人か受け持っていた生徒の一人。そういえば高校一年にも関わらず、体の大きさの所為か、少し大人びた雰囲気のある子だった。勉強熱心で、家庭教師が必要無い位なんじゃないか、と思う程成績も良かった。要によく懐き、何度か遊びに誘われたこともあったが、高校一年の男子相手になにを話せばいいのか、と結局一度も誘いに乗ることはなかった。要が大学四年になって、就職活動や卒論の準備等で忙しくなり、生徒を少し減らした際、責任の軽い一年生から断っていったので、教えたのは丸一年間だけ。

――その飯田直登が突然、何だろう？

　不思議に思いながら、フロントに出た。すると、先程取次ぎをした女性社員に勧められたと思われる椅子に座っていた直登が、要の姿を確認し、手を挙げて立ち上がった。

「せーんせ！　俺！　飯田直登！　覚えてる？」

　確かに目の保養になるような端正な顔に満面の笑みを浮かべて嬉しそうに言う。高校一年生の頃より、当たり前だが更に二周りほど大きくなり、男らしく成長したその姿に要の胸がずくん、と跳ねた。

「ああ、覚えてるよ。Ｎ高の……」
「そ！　覚えててくれたんだ。せんせ、まだ仕事終わんないの？　今から、晩飯でもどう？」
「え？　また突然だな……。……いいよ。たまには早く帰ってもいいかな。やりかけの仕事だけ片付けてくるから、下の喫茶店で待ってて。三十分程で行けると思うから」
「了解ー、じゃ、待ってるから！」

　嬉しそうにそう言って直登はフロントを出て行った。


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