引越し屋か。似合ってるだろうな。要は、ビールのジョッキを持つ直登の腕を眺めてそう思った。骨太で、美しく引き締まった筋肉がついた逞しい腕。どちらかというと華奢で体力もあまり無く、学生時代のアルバイトと言えば、家庭教師くらいしかできなかった要とは随分違う。
「アルバイトだけど、こういうの、初任給、って言うっしょ。初任給って、今までお世話になった人とかに、何か買ってあげたりするじゃん? だから、先生に何かあげたいと思って」
お通しの筍の木の芽和えを食べながら直登が答える。
「何が良いか、ぜんぜん見当もつかなくて、色々迷ったんだけど、これ」
と言ってデパートの小さな紙袋を差し出した。驚いて要は喉を詰まらせそうになり、それをビールで流し込んだ。
「お世話って、俺が家庭教師をしたの、直登が一年生の、一年間だけじゃないか。もっと他にあげるべき人がいるだろ? その後の先生とか、親御さんとかさ」
「家庭教師は先生だけだよ。その後は一人で勉強した。夏休みとかは、予備校にも行ってみたけど、先生に勉強見て貰ったから、俺、先生と同じ大学に行きたいとも思ったし、それに」
と言ってぐび、とまたビールを煽る。
「それに?」
「それに、先生にまた会う口実にもなると思ったから」
まっすぐな目で見つめられ、もう酒が回ったのか、一瞬天井がぐらりと揺れ、顔がかっと紅潮する。それを鎮めるために要もビールを煽った。
「とにかく、それ、貰ってよ。開けてみて」
「ええ、いいのか…?」
「いいって。早く」
そう言われて要は袋に手を掛けた。袋の中には細長い箱がこそりと入っている。更にその包みを解くと、箱の中から大事そうに包まれたワイングラスが一つ、姿を現した。普通のワイングラスより少し細身で長細いそれは、薄いクリスタルに丁寧な装飾が施され、見るからに安いものではない、と判る。
「……。綺麗だな。高かったろ? 本当に貰っていいの?」
要はグラスの柄の部分を注意深く持ち、しげしげと眺めた。本当に美しい。
「うん。何をあげるか、本当に迷って、色んな店の色んなフロアを探して歩いたんだ。でも、このグラスを見て、すぐこれに決めた。何ていうか、先生みたいっしょ? 華奢で、繊細で、すっごい綺麗なところとか」
「……!」
さらりと形容する直登の言葉に、要の体中ではますますアルコールが暴れ出す。このままこのワイングラスを手にしていたら、落として割りそうだ、と思い、要は慌ててまた注意深くグラスを箱へと戻した。いつの間にか追加注文されて手元に来ていた新しいビールのジョッキを頬に当て、顔の火照りを静めようとしたが、まったく治まる気配がしない。
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「それに?」
「それに、先生にまた会う口実にもなると思ったから」
まっすぐな目で見つめられ、もう酒が回ったのか、一瞬天井がぐらりと揺れ、顔がかっと紅潮する。それを鎮めるために要もビールを煽った。
「とにかく、それ、貰ってよ。開けてみて」
「ええ、いいのか…?」
「いいって。早く」
そう言われて要は袋に手を掛けた。袋の中には細長い箱がこそりと入っている。更にその包みを解くと、箱の中から大事そうに包まれたワイングラスが一つ、姿を現した。普通のワイングラスより少し細身で長細いそれは、薄いクリスタルに丁寧な装飾が施され、見るからに安いものではない、と判る。
「……。綺麗だな。高かったろ? 本当に貰っていいの?」
要はグラスの柄の部分を注意深く持ち、しげしげと眺めた。本当に美しい。
「うん。何をあげるか、本当に迷って、色んな店の色んなフロアを探して歩いたんだ。でも、このグラスを見て、すぐこれに決めた。何ていうか、先生みたいっしょ? 華奢で、繊細で、すっごい綺麗なところとか」
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