「せんせ」
「?」
「今、彼氏、いる?」
そう聞かれて、賑わう居酒屋の雑音が凍りつき、要の耳には届かなくなった。代わりに自分の心臓の音がばくばく聞こえる。酒の所為か、心臓は爆発しそうに脈打っていた。
「?」
「今、彼氏、いる?」
そう聞かれて、賑わう居酒屋の雑音が凍りつき、要の耳には届かなくなった。代わりに自分の心臓の音がばくばく聞こえる。酒の所為か、心臓は爆発しそうに脈打っていた。
「彼氏って……、何だよ。彼女だろ、普通」
冷静を装ってぎくしゃくと笑顔を作る。
「え、ええと……違った?」
直登は少し大きい口の端をへの字に曲げて、少し不安になった様子で訊ねなおした。
――違った?って……。そりゃ、違わないけど……。
そうなのだ。物心ついた頃から女性には興味が持てなかった。淡い気持ちを抱くのは同性ばかり。直登を教えていた当時、直登の熱を帯びた視線を感じては、言いようのない気持ちがこみ上げたことも覚えている。もちろん、その当時、付き合っていた奴もいたし、教え子を喰ってしまうほど、要も見境の無い男ではない。だが、遊びの誘いに乗らなかったのも、大学四年になって直登の勉強を見るのを断ったのも、これ以上深入りすると、理性が持たないのではないかという不安もあったからだ。
社会人になってからは、生活環境の変化で付き合っていた男とも何となく別れ、いままで仕事が忙しかったので、新たに誰とも付き合うことなく今に至っている。
「……。別に、誰も……」
長い沈黙の後、要が小声で答えた。
「ほんと?! せんせ、俺、どう? あの頃より、もうずっと大人だよ。あの頃は先生、俺を子供扱いして相手にしてくんなかったけど、今は絶対、違うから。だからさ……」
急に饒舌になってまくし立てる直登の様子に要はふ、と微笑んだ。もう大人だ、って言う事自体、まだ子供なんじゃないか? 高一の頃の雰囲気の方が大人っぽかったような……。でもこの感じ、悪くない。久々の甘くて柔らかい気持ちに要はうっとりする。
「直登、一番大事なこと、まだ俺に言ってないんじゃない?」
「え? えーと……、せんせ、俺、先生のこと、好きなんだ。あの頃からずっと。だから、俺と、付き合ってください」
直球勝負の台詞に要の心はふわりと温かいものがこみ上げ、柔らかな笑みが零れた。その笑みを直登が不安そうに見つめる。
「ワイングラス……」
「え?」
突然何を?という顔で直登はさらに不安そうに要を見る。
「一つなんだな」
「え、あ、うん……。その、言っても、まあ高かったから……」
しゅんとうなだれる直登に、少し意地悪そうに要は笑う。
「今度、俺がお前用に同じやつ、買ってやるよ。俺の家に置いておくから、今度それで一緒にワイン飲も?」
直登は驚いたように目を見開き顔を上げた。
「え、それって…、オッケーってこと……?」
先程までのしゅんとした顔とはうって変わっての嬉しそうな表情。やっぱ、男前だな。だけど、さっきの顔も可愛かったから、返事は少し先延ばしにしてやろう。
「それは、お前の大人度によるな」
要は直登の耳元でそう囁いて、酔いにまかせて耳を少し噛んでやった。
おしまい
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冷静を装ってぎくしゃくと笑顔を作る。
「え、ええと……違った?」
直登は少し大きい口の端をへの字に曲げて、少し不安になった様子で訊ねなおした。
――違った?って……。そりゃ、違わないけど……。
そうなのだ。物心ついた頃から女性には興味が持てなかった。淡い気持ちを抱くのは同性ばかり。直登を教えていた当時、直登の熱を帯びた視線を感じては、言いようのない気持ちがこみ上げたことも覚えている。もちろん、その当時、付き合っていた奴もいたし、教え子を喰ってしまうほど、要も見境の無い男ではない。だが、遊びの誘いに乗らなかったのも、大学四年になって直登の勉強を見るのを断ったのも、これ以上深入りすると、理性が持たないのではないかという不安もあったからだ。
社会人になってからは、生活環境の変化で付き合っていた男とも何となく別れ、いままで仕事が忙しかったので、新たに誰とも付き合うことなく今に至っている。
「……。別に、誰も……」
長い沈黙の後、要が小声で答えた。
「ほんと?! せんせ、俺、どう? あの頃より、もうずっと大人だよ。あの頃は先生、俺を子供扱いして相手にしてくんなかったけど、今は絶対、違うから。だからさ……」
急に饒舌になってまくし立てる直登の様子に要はふ、と微笑んだ。もう大人だ、って言う事自体、まだ子供なんじゃないか? 高一の頃の雰囲気の方が大人っぽかったような……。でもこの感じ、悪くない。久々の甘くて柔らかい気持ちに要はうっとりする。
「直登、一番大事なこと、まだ俺に言ってないんじゃない?」
「え? えーと……、せんせ、俺、先生のこと、好きなんだ。あの頃からずっと。だから、俺と、付き合ってください」
直球勝負の台詞に要の心はふわりと温かいものがこみ上げ、柔らかな笑みが零れた。その笑みを直登が不安そうに見つめる。
「ワイングラス……」
「え?」
突然何を?という顔で直登はさらに不安そうに要を見る。
「一つなんだな」
「え、あ、うん……。その、言っても、まあ高かったから……」
しゅんとうなだれる直登に、少し意地悪そうに要は笑う。
「今度、俺がお前用に同じやつ、買ってやるよ。俺の家に置いておくから、今度それで一緒にワイン飲も?」
直登は驚いたように目を見開き顔を上げた。
「え、それって…、オッケーってこと……?」
先程までのしゅんとした顔とはうって変わっての嬉しそうな表情。やっぱ、男前だな。だけど、さっきの顔も可愛かったから、返事は少し先延ばしにしてやろう。
「それは、お前の大人度によるな」
要は直登の耳元でそう囁いて、酔いにまかせて耳を少し噛んでやった。
おしまい
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コメント
イチゴさん
いつもありがとうございます!
私も年下攻め大好物( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ
このカプ話もシリーズアリです。
最終的には18禁にまで持ち込みたい…!!
いつもありがとうございます!
私も年下攻め大好物( ´∀`)人(´∀` )ナカーマ
このカプ話もシリーズアリです。
最終的には18禁にまで持ち込みたい…!!
いきなり、「俺どう?!」
直球やな、ホンマ・・・
コドモやコドモ^0^
「言っても」高かったから・・・
こういうね・・・リアリティーのある台詞って好きですね。
「本当の言葉」で語られる会話文って、説得力あります。
やりすぎるとただ煩雑になるばかりだけど。
直球やな、ホンマ・・・
コドモやコドモ^0^
「言っても」高かったから・・・
こういうね・・・リアリティーのある台詞って好きですね。
「本当の言葉」で語られる会話文って、説得力あります。
やりすぎるとただ煩雑になるばかりだけど。
2007/11/07(水) 14:58 | URL | 平和堂書店 #-[ 編集]
しかし関東弁?標準語に関しては
全然分からないんですよ…
結構最近まで「値打ちこく」「かます」が全国区の言葉だと信じていまんた☆
全然分からないんですよ…
結構最近まで「値打ちこく」「かます」が全国区の言葉だと信じていまんた☆
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