夏の夜の夢（２/３）

　地下鉄に乗って数駅。花火大会会場の最寄りで下りた。いつもは車道の大通りが歩行者天国になっていて、そこが人で埋め尽くされている。どこからこんなに大勢の人が集まって来るんだろう。世の中にはこんなに、ここにいるだけじゃない、もっとたくさん人がいて、その中から慎治さんが俺を見つけてくれた奇跡を思うと、胸がきゅ、と音を立てた。

　この人ごみで慎治さんと肩を並べて歩くのは難しい。俺は慎治さんのうなじを追いかけるように必死に付いてゆく。それでも押し寄せる人に引き離されそうになった。

「慎治さ……」

　俺は思わず慎治さんの手を掴んだ。慎治さんがどこか驚いたように振り返って、それから優しく笑って俺の手を握り返した。

　繋がった手。そこから、慎治さんが流れ込んでくる。会話は、要らなかった。

　少し人気が引いても暫く、俺と慎治さんは黙って手を繋いだまま歩いた。小さくて、大きな、幸せ。噛み締めるように、繋いだ手をぎゅっと握った。



「何がイイ？」

　急に立ち止まった慎治さんに聞かれて俺は顔を上げた。そこはお面の出店の前だった。

「お面？」
「おう、好きなの買ってやるよ」

　慎治さんはにんまり笑って、俺を見た。

　あ、慎治さんのこの顔。

　――慎治さん、嬉しいんだ。

　そんな慎治さんが可愛くて、愛しくて、じっと見ていたくなる。ほら決めろよ、と突つかれて、俺はやっとずらっと並んだお面に視線を向けた。

「んー……じゃベジータ？」

　ベジータな、と言ってすぐに慎治さんは売ってる人からそれを買った。

「ほら」

　そのお面を俺の頭の横に掛けて、慎治さんが満足そうに笑う。

「慎治さんがつけんだよ」
「なんで俺だよ」
「うなじがやらしいから、これで隠して」

　さっきからチラチラ俺を惑わせる慎治さんのうなじを指先でツツ……、となぞった。思いがけない俺の行動に慎治さんはうわ、と肩を竦めた。

「お前な……」
「はいコレ」

　にっこり、できてたかどうかは分からないけど、慎治さんのうなじが隠れるように、ベジータを引っ掛けた。慎治さんは一瞬呆気に取られ、それからお前俺をいくつだと思ってんだよ、と毒づきながらもそのまま笑って歩き出した。だから俺は、今度はスーパーサイヤ人の中で俺を誘ううなじを思い起こしながら、慎治さんを追いかける格好になった。







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