終業のチャイムが鳴り、途端に大講義室はざわめきを取り戻す。揺すられて覚醒を促された歩は頭を上げ、目を擦った。
「終わったよ」
「ん……ありがと」
歩は形ばかり出していた教科書と筆記具を鞄にしまい、野本と一緒に大講義室を出た。
「終わったよ」
「ん……ありがと」
歩は形ばかり出していた教科書と筆記具を鞄にしまい、野本と一緒に大講義室を出た。
「お前さあ……最近笑うようになったよな」
二人ともこの日はもう授業がなかった。
アルバイトまであと僅かの空き時間、歩が恋人の顔を見るために、彼が働く店へ立ち寄るには少し短い。何をして時間を潰すかと考えていた歩を、バイトまで何もないなら、と野本が学食のカフェテリアに誘った。
日当たりの良い窓際の席を選んで二人、小ぶりなテーブルを挟んで向かい合って座った。学食の薄いコーヒーを飲みながら、恋人の淹れたコーヒーを恋しく思っていた歩に、野本が声を発した。
年度末を控え、普段より学生の数も少なく閑散としたそこは、少しのざわめきに少しの静けさ。いつもより小声で話す野本の声は、程よく歩に届いて、そして周囲にかき消される。
「――え?」
「笑う、つか印象柔らかくなった、つかさ? この夏休み明けくらいから、かな」
「んー……」
そかな、と歩は曖昧に笑ったが、野本の鋭い言葉にふと、歩の脳裏に恋人の姿が浮かんだ。
――慎治さん。
五月に二十歳になって歩は、慎治に再会した。
十七の時に彼に一方的に告げられた別れ。その理由は歩がコドモだから、と慎治は言った。
それからずっと、大人になろうと、二十歳になって大人になったらもう一度だけ慎治に会いに行こうと、その日のために歩はがむしゃらにやってきた。自分の思う「大人」になるため、彼に会った時恥ずかしくない自分でいるため、彼と同じ大学に合格し、親を説き伏せて学費は自分で賄うと、アルバイトに明け暮れた。
他は何も見えなかった。
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「――え?」
「笑う、つか印象柔らかくなった、つかさ? この夏休み明けくらいから、かな」
「んー……」
そかな、と歩は曖昧に笑ったが、野本の鋭い言葉にふと、歩の脳裏に恋人の姿が浮かんだ。
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五月に二十歳になって歩は、慎治に再会した。
十七の時に彼に一方的に告げられた別れ。その理由は歩がコドモだから、と慎治は言った。
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