あぶりだし☆何書く？

　今日も相変わらず可愛らしいこと言うやんけ。――俺がお前のやりたい事に「あかん」って言うた事なんてないのん、知ってるやろ。

「ええよ」

　啓輔は一も二もなく頷いた。

　啓輔が何を書こうかと思案しているうちに、良充は用意してあった藁半紙に、レモン汁を浸した筆で見えない文字だか絵だかを次から次へと書いてゆく。
　考えても何も思い浮かばない。啓輔は唯一、思い浮かんだ「良充」という見えない文字を藁半紙に書いてみた。

「よっしゃあ、ほんならあぶりだしてみよか。……なんやあ、啓輔、一枚しか書いてへんの？　……あ、でももう紙ないわ」

　啓輔の枚数の少なさにさして疑問を持った様子もなく、良光は啓輔を連れて台所へと入った。
　側で良充の母親に見てもらいながらコンロに火を点ける。その上に紙をひらひらさせると、良充の描いた、不思議な文字や絵が浮かび上がってくる。

　「にょろ」と書かれていたり、星マークが浮かび上がってきたり、へのへのもへじやドラえもん（と思われるもの）。なんや、こんなんで良かったんか。色々悩んだ啓輔は今更ながら自分の書いた文字を思うと冷や汗が出てきた。

「俺のんはこれが最後やで」

　にっこり笑って一番大事そうに炙り出されたその文字は、「啓輪」だった。

「俺、お前の名前、漢字で書けんねん」

　大きな目を更に大きく開いて得意そうに良充が言う。

「……すけ、そんな漢字とちゃうで」
「ええ？！　そうなん？　昨日学校で習ってこれや！　って思たのにい？」
「……後で教えたるわ」

　啓輔はこほんと咳払いをしてそう答えた。

「んで、お前のはあ？　何書いてん？」
「あ、こ、これは、しっ失敗失敗」

　慌てて啓輔は手にしていた、正しい漢字で「良充」書かれた藁半紙をくしゃくしゃと丸めた。

　――無邪気に俺の名前書いてくれよるわ、ほんま。

　啓輔は何故か少し後ろめたい気持ちになる。
　啓輔の気持ちにも似た、酸っぱいレモン汁で書かれた見えない文字は、炙り出されないまま、丸めてゴミ箱へ捨てられた。


おしまい


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