――ああ、やっぱりこの人は。
石田が好きだったのか。坂崎がいつも見ていた陣内の視線の先には、いつも石田がいた。分かってはいたが、改めて本人から知らされるとやはりショックは大きい。
石田が好きだったのか。坂崎がいつも見ていた陣内の視線の先には、いつも石田がいた。分かってはいたが、改めて本人から知らされるとやはりショックは大きい。
けれども悲しい無表情を身に着けているのは、坂崎もまた同じだった。手の中のグラスを呷る事で溢れそうになる感情を押し戻す。
石田は既婚者だ。恐らく石田には陣内は優しい先輩くらいにしか映っていないだろう。さっきまで石田と、その妻と飲んでいたと言っていた。陣内も、改めて石田が自分のものにはなり得ないと気付かされてしまったのかもしれない。
――付け込める、だろうか……。
坂崎に向けられる事のない視線。寂しそうな横顔。今なら、ほんのひと時だけでも俺にその視線を向けてくれるだろうか。
「分かりますよ……俺には。だって陣内さんも……気付いてるんでしょう? いつも俺が陣内さんを見てる事」
陣内がふと顔を上げ、カウンターの奥、洋酒の瓶が並ぶ棚へと視線を向けた。それからゆっくり、その視線を坂崎へと移す。
「俺じゃ……陣内さんの事、慰める事できませんか……?」
陣内の瞳が揺れる。答えに窮しているのか、何か言おうと口を一度小さく開き、躊躇(ためら)ってまた閉じた。
「……そんなの……俺の事見てるとか、聞いといて……ウンなんて言えないっしょ」
長い沈黙の後、視線をまたグラスに戻して陣内が答えた。沈黙の間に張り付いてしまった喉を潤すように、陣内はグラスを傾けた。陣内の手の中で鳴る氷の音がやけに大きく聞こえる。
「……じゃあ、言い方を変えます。俺……ついさっき、好きな人に他に好きな人がいる、って言われて。フラれたばっかなんです。……慰めてもらえませんか……?」
――我ながら必死だな。
それであなたの身体に触れる事ができるなら。心が手に入らなくても。
「坂崎、分かってんの? 俺は……」
「分かってます」
最後まで聞きたくなくて、陣内の言葉を遮るように言葉を返す。
――分かってる。この人は俺ではなく、石田を好きだという事。身体を重ねたら、次は心が欲しくなるかもしれない事も。今以上に苦しくなるかもしれない事も。
――それでも、諦められない。
「……全部、分かってます」
落ち着いて話しているつもりなのに、息が荒い。鼓動も昂ぶっている。――告白してフラれて、それでも食い下がってるんだから、当たり前か。
どうか、頷いて欲しい。陣内をじっと見つめる。陣内は一度ゆっくりと瞬きをして、寂しく微笑んだ。
「……俺で良ければ、喜んで」
3へ→
コイゴコロヒトツの続編です。
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石田は既婚者だ。恐らく石田には陣内は優しい先輩くらいにしか映っていないだろう。さっきまで石田と、その妻と飲んでいたと言っていた。陣内も、改めて石田が自分のものにはなり得ないと気付かされてしまったのかもしれない。
――付け込める、だろうか……。
坂崎に向けられる事のない視線。寂しそうな横顔。今なら、ほんのひと時だけでも俺にその視線を向けてくれるだろうか。
「分かりますよ……俺には。だって陣内さんも……気付いてるんでしょう? いつも俺が陣内さんを見てる事」
陣内がふと顔を上げ、カウンターの奥、洋酒の瓶が並ぶ棚へと視線を向けた。それからゆっくり、その視線を坂崎へと移す。
「俺じゃ……陣内さんの事、慰める事できませんか……?」
陣内の瞳が揺れる。答えに窮しているのか、何か言おうと口を一度小さく開き、躊躇(ためら)ってまた閉じた。
「……そんなの……俺の事見てるとか、聞いといて……ウンなんて言えないっしょ」
長い沈黙の後、視線をまたグラスに戻して陣内が答えた。沈黙の間に張り付いてしまった喉を潤すように、陣内はグラスを傾けた。陣内の手の中で鳴る氷の音がやけに大きく聞こえる。
「……じゃあ、言い方を変えます。俺……ついさっき、好きな人に他に好きな人がいる、って言われて。フラれたばっかなんです。……慰めてもらえませんか……?」
――我ながら必死だな。
それであなたの身体に触れる事ができるなら。心が手に入らなくても。
「坂崎、分かってんの? 俺は……」
「分かってます」
最後まで聞きたくなくて、陣内の言葉を遮るように言葉を返す。
――分かってる。この人は俺ではなく、石田を好きだという事。身体を重ねたら、次は心が欲しくなるかもしれない事も。今以上に苦しくなるかもしれない事も。
――それでも、諦められない。
「……全部、分かってます」
落ち着いて話しているつもりなのに、息が荒い。鼓動も昂ぶっている。――告白してフラれて、それでも食い下がってるんだから、当たり前か。
どうか、頷いて欲しい。陣内をじっと見つめる。陣内は一度ゆっくりと瞬きをして、寂しく微笑んだ。
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