秋晴れの青い空。こんな日は、和大(かずひろ)は少し遠回りして河原の土手を通って学校から帰る。今日みたいな天気の日には、きっといる。
橋を越えて自分の家に近い方の土手沿いをしばらく行くと、風に乗って微かに聴こえてくる。空気をたくさん含んだ、アコーディオンの音。
橋を越えて自分の家に近い方の土手沿いをしばらく行くと、風に乗って微かに聴こえてくる。空気をたくさん含んだ、アコーディオンの音。
――やっぱり。チカ兄、来てる。
ふと目に留まった風にゆらめくすすきを一本手折って、和大は音のする方へ向かって駆けだした。
風に乗って聴こえてくるアコーディオンがだんだん大きくなってくると、それとともにさらに空気をたくさん含んだ、千景の歌声が混じってきた。
「チカ兄」
息せき切って千景の側に駆け寄ると、ぴた、と千景が手を止めた。さっきまで流れていた空気みたいな音そのまんまの笑顔で千景が振り返る。
「おかえり、カズちゃん」
「チカ兄、またアコーディオン弾いてんの? レパートリー少ないんだからさ、いい加減にしなよ。絵描きなんだろ、スケッチとかすれば?」
十も年上の千景に説教めいた口調で話しかけながら、和大は千景の隣に腰掛けた。千景はそんな和大を見つめて静かに微笑む。
「絵はね、俺は部屋でしか描かないんだ。こうやって出掛けて、目に焼き付けておくんだよ」
千景は高く澄んだ秋空を仰いで目を細めた。
千景は、四年ほど前に和大のアパートの隣に移り住んできた、空の絵ばっかり描いている絵描きである。たまに非常勤で美術講師なんかをして何とか食い繋いでいるようだけれど、中学生の和大でさえ毎月の家賃をどうやって捻出してるのか心配になるくらい、日がな一日をふらふらして過ごしている。
千景の描く絵は本人そのままで、見てるだけで澄んだ空気が身体の中まで流れてきそうなものばかりだ。晴れた空だけじゃない。雨の空、曇った空、夜空もある。そのどれもが、眺めているとその空の下の空気に包まれて立っているかのような気がしてくる。
でも、どの絵もどこか寂しい。
絵のことはよく分からないけれど、和大は千景の絵を見るたび、そう思った。
それは、その絵を描いている本人を知っているからかもしれない。千景の笑顔は、いつも、どこか寂しそうに見えた。
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「絵はね、俺は部屋でしか描かないんだ。こうやって出掛けて、目に焼き付けておくんだよ」
千景は高く澄んだ秋空を仰いで目を細めた。
千景は、四年ほど前に和大のアパートの隣に移り住んできた、空の絵ばっかり描いている絵描きである。たまに非常勤で美術講師なんかをして何とか食い繋いでいるようだけれど、中学生の和大でさえ毎月の家賃をどうやって捻出してるのか心配になるくらい、日がな一日をふらふらして過ごしている。
千景の描く絵は本人そのままで、見てるだけで澄んだ空気が身体の中まで流れてきそうなものばかりだ。晴れた空だけじゃない。雨の空、曇った空、夜空もある。そのどれもが、眺めているとその空の下の空気に包まれて立っているかのような気がしてくる。
でも、どの絵もどこか寂しい。
絵のことはよく分からないけれど、和大は千景の絵を見るたび、そう思った。
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