空に、白い雪（２）

　和大は手にしていたすすきで千景のアコーディオンをぽんぽん、とたたく。

「だめだよ。おばさんが一生懸命働いたお金なんだから。大切にしないと。それにカズちゃんはこれからどんどん大きくならないといけないんだからね、カズちゃんこそたくさん食べないと」
「オレはもう充分育ってるよ」

　中二の和大は、今年になって急に背が伸び出してもう百八〇センチ近くにまでなっていた。ついこの間まで千景より低かった身長も、あっという間に追い抜いた。背が伸びるたび、千景は「カズちゃんすごいな。もうあと何年かしたら、ホントいい男になるだろうな」と言って笑う。和大はそう言われると嬉しくて、でも少しこそばゆい気持ちになる。そしてそのたび和大は思った。

　――いつか、チカ兄を守れるような大人になれるだろうか。

　いつの間にか、和大は千景に恋をしていた。

　アパート前に着くと、見慣れない車が停められていた。国産車だが、高級オフロード車であるその車のウィンドウは真っ黒で、中を見ることはできない。

「なんだろ、この車？　こんなボロアパートの前に、めずらしいな」

　和大が同意を求めて千景を見遣ると、千景ははっとしたように和大を見てにこ、と笑った。

「……そうだね」

　アパートのスチールの階段を上がる二人の足音が辺りにガンガンと鳴り響く。
　階段を上りきったところで千景が急に立ち止まった。後に続いて階段を上ってきた和大の額が千景の背中にぶつかる。

「チカ兄、どしたの？」

　立ち竦む千景の視線の先には、和大にも見覚えのある男が立っていた。

「千景……。やっと見つけた」
「たける……」

　呟いて千景は今上ってきたばかりの階段を下りようとくるりと踵を返した。それを逃すまいとすぐさま男が千景の腕を掴む。

「や……はなせっ……！」
「千景、なんで逃げるんだよ？　俺のこと、もう要らなくなったのかよ？」
「そうだよっ……。だから……」

　男が千景を抱きとめようともう片方の腕を伸ばす。千景の肩に掛けられたアコーディオンが千景を守るかのようにびゃ、と音をたてた。


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(ﾉ∀`)ｱﾁｬｰなんか猛烈にﾊｽﾞｶｼｽ。よろしければ最後までお付き合いくだちぃ。
　
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