誰もがきっと、誰かの。（104）（R15）

「生、……」
「ぇ、……ぁ」

　貴史に促されて先に玄関に入ると、後ろ手にドアを閉めた貴史に背中から抱き寄せられた。肩口に顔を埋める貴史の熱を感じただけで、その熱に呼ばれるように身体の中で次々に熱が生まれてゆく。その熱さに身を灼かれ、呼吸することまで難しくなる。苦しくて、喘ぐように空気を求めた。

「生、欲しい」
「ん、……」

　早く、と耳元で囁かれ、後ろから背広を剥ぎ取られる。ぱさり、と床に落ちる背広の音が煩いほどに熱く鼓膜に響く。絡み付くように抱き締められながら、二人で寝室に向かった。その途中廊下で、急いたような仕草でネクタイをするりと抜かれると、首元で生じる淡い衣擦れに背中がぞくりと粟立った。

「ぁ、……」
「生のスーツ脱がすの、スッゲークる……」

　熱を孕んだ貴史の吐息をうなじに感じる。ワイシャツのボタンに手を掛けられると、生は少し身体を強ばらせ、貴史の手首を握ってその動きをやんわりと制した。

「貴史僕、汗かいてる……」

　夏の日中、外回りでかいた汗やオフィスの埃で汚れた身体。貴史にそのまま触れさせてしまうのは申し訳ないと思うと同時に、少しの羞恥もあった。

「今シャワー浴びてもまた汗かくからいいよ。終わったら、俺がまた洗ってあげる」

　生が取った貴史の手首が、生の手ごと貴史の口元へと運ばれる。手の甲にしっとりとした口付けが落とされ、そこから指先まで、尖った舌先が這うようにゆっくりと辿った。

「ぁ……」

　指先がじんと疼くように痺れ、戦意喪失したように指先から力が抜ける。それを見計らうかのように、再びボタンに貴史の手が伸びてきて、自分の衣服を脱ぐような滑らかな所作で、一つずつ、ボタンが外されていった。



　
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