誰もがきっと、誰かの。（107）（R15）

「清、廉……？」
「清らかで清潔そう、って感じ？」
「そんなこと、っ、有り得な……、ん」

　昼間余裕なく仕事する自分が清らかだとか清潔だとか、思ったことなど一度もない。不潔とまでは言いたくないが、特にこの季節、清潔を保つことは難しい。せめて人に不快感を与えない程度に清潔でいたいと思ってはいるが、それができているのかどうかは、人に聞いてみたことがあるわけでもないので分からない。

　貴史は生の何を見てそう言っているのだろう。

　緩くかぶりを振ると、背後で貴史がくすりと笑う吐息をうなじで感じた。

「物理的な話じゃねぇよ。生の仕事に真面目なとことか、……真面目っつうか一途っつうか……真摯な感じするとことか。もう俺が生の仕事になりてぇくらい」
「どういう……なに、それ」

　貴史は冗談口調だが、その言葉は生の胸にはぐっと響いた。

　真面目であることはそれしかできないからで、生は自分は冗談もあまり通用しない、つまらない人間だと思ってきた。そんな自分を貴史は本当に、良いと思ってくれているのだろうか。

　貴史の猛りを背後で感じながらもまだそんなことを考えてしまうのは、自信のなさの表れなのか。

　いずれにしてもまだ半信半疑で、貴史の腿に揺らされながら生はただ小さく喘いだ。

「――嘘」
「っ、……ぇ」

　ほんの一瞬、頭から血の気が引く。瞬時に考えたのは、「やっぱり」という言葉。

　けれども貴史は、全身から力が抜けてしまいそうになった生の身体を、より強く抱きしめた。

「ほんとはこの三週間、生の前のオトコになりたいと思ってた」
「……、……」
「生、スゲェ好き」

　殺し文句のように、生の心にずしんと届く。その途端、生の膝は、かくんと折れた。



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