夜の都会の車道を、山中の運転で東京駅へと向かう。
助手席からちらりとスピードメーターを見やると結構な速度が出ているのにもかかわらず、同乗している大敬にそれを感じさせない。社用車は一般的なバンで、高級車ではない。ということは山中の運転が巧いのだろう。
こういうのを安心できる運転、というのだろうか、などと思いながら、大敬はゆったりとシートに身を預けた。
助手席からちらりとスピードメーターを見やると結構な速度が出ているのにもかかわらず、同乗している大敬にそれを感じさせない。社用車は一般的なバンで、高級車ではない。ということは山中の運転が巧いのだろう。
こういうのを安心できる運転、というのだろうか、などと思いながら、大敬はゆったりとシートに身を預けた。
「眠いか?」
大敬の疲れを慮ってか、いつもより抑えたトーンで山中が問う。
「いえ。体力だけはありますから」
ゆっくりと山中に視線を向ける。対向車のライトに照らされるたび、山中の輪郭が浮かび上がる。目と眉の距離が狭く、彫りは深めといえるだろう。すっと通った鼻梁。その下には、程よい厚みの唇。女子社員が騒ぐのも頷ける、横顔。
――あの唇に俺、……。
一山超えた安堵で、この二日忘れていた記憶がまた蘇り、頬が熱を持つ。仕掛けてきた当の本人は平然と車の運転を続けている。
――なんで俺が顔赤くしないとなんねんだよ。
不貞たように、小さく唇を尖らせた。
「見惚れてんのか?」
いつの間にか赤信号になっていた。くるりと大敬に顔を向けた山中が、にやりと笑う。
「ちがっ……」
違わなくはなかったが、そうだとは絶対に答えたくない。嫌そうに顔を顰めると、山中は嬉しそうにも見える笑みを見せた。
「とにかくお疲れ。今日は……帰宅は遅くなるだろうから無理だろうが、土日にはしっかり休んでまた月曜。元気にまたこっちに来い」
「はい……そう、すね」
まだ自分のミスを引きずる大敬は、山中の労いの言葉に、少しいたたまれない気分になる。
信号が青になり、車は再び静かに走り出す。
大敬は一度うつむいて、そして山中と同じ方向を見た。
←39へ / 41へ→
←1から読む
参考:貴史×生
にほんブログ村
↑ランキング参加中す。よければクリック入魂一押ししてください。
書く意欲に繋がってます(*´∀`)
携帯からはポイント反映されないことがあるようです(090907現在)
ぜひパソからの一押しお待ちしてます(*´∀`)
大敬の疲れを慮ってか、いつもより抑えたトーンで山中が問う。
「いえ。体力だけはありますから」
ゆっくりと山中に視線を向ける。対向車のライトに照らされるたび、山中の輪郭が浮かび上がる。目と眉の距離が狭く、彫りは深めといえるだろう。すっと通った鼻梁。その下には、程よい厚みの唇。女子社員が騒ぐのも頷ける、横顔。
――あの唇に俺、……。
一山超えた安堵で、この二日忘れていた記憶がまた蘇り、頬が熱を持つ。仕掛けてきた当の本人は平然と車の運転を続けている。
――なんで俺が顔赤くしないとなんねんだよ。
不貞たように、小さく唇を尖らせた。
「見惚れてんのか?」
いつの間にか赤信号になっていた。くるりと大敬に顔を向けた山中が、にやりと笑う。
「ちがっ……」
違わなくはなかったが、そうだとは絶対に答えたくない。嫌そうに顔を顰めると、山中は嬉しそうにも見える笑みを見せた。
「とにかくお疲れ。今日は……帰宅は遅くなるだろうから無理だろうが、土日にはしっかり休んでまた月曜。元気にまたこっちに来い」
「はい……そう、すね」
まだ自分のミスを引きずる大敬は、山中の労いの言葉に、少しいたたまれない気分になる。
信号が青になり、車は再び静かに走り出す。
大敬は一度うつむいて、そして山中と同じ方向を見た。
←39へ / 41へ→
←1から読む
参考:貴史×生
にほんブログ村
↑ランキング参加中す。よければクリック入魂一押ししてください。
書く意欲に繋がってます(*´∀`)
携帯からはポイント反映されないことがあるようです(090907現在)
ぜひパソからの一押しお待ちしてます(*´∀`)