件名:坂崎です
終業時刻はとうに過ぎた午後七時。それでも今日は比較的早くに仕事が片付いた。パソコンの電源を落とす前の日課ともいえるメールの最終チェックをした陣内のメーラーに、『〇〇さん送別会について』とか『【重要】持株会制度改正についての件』などのいくつか入っていた新着メールに混じっていた件名。ご丁寧に『重要』フラグまで立ててある。
終業時刻はとうに過ぎた午後七時。それでも今日は比較的早くに仕事が片付いた。パソコンの電源を落とす前の日課ともいえるメールの最終チェックをした陣内のメーラーに、『〇〇さん送別会について』とか『【重要】持株会制度改正についての件』などのいくつか入っていた新着メールに混じっていた件名。ご丁寧に『重要』フラグまで立ててある。
パーテーションすらない隣の島の部署、坂崎の机を見る。坂崎は離席中だ。パソコンの電源が入ったままの所をみるとさしずめトイレか、喫煙室に行っているのだろう。
全ての件名をざっと見て、他のメールは週明けで良いだろうと判断した。陣内は坂崎からのメールだけを開いた。
本文:今日飲みに行きませんか
坂崎からメールで飲みに誘われたのは初めてだった。お互い存在は知っていれども他部署の関係。朝目が合えば挨拶する、その程度の間柄。一度身体を重ねてからも、それは変わらなかった。
今日は金曜日。他に予定もない。――断る物理的理由はない。
陣内は返信ボタンをクリックした。
件名:Re:坂崎です
本文:了解。20時まで前のドトールで待ってます。
陣内は送受信ボタンをクリックして、パソコンの電源を落とした。
「お疲れ。お先」
パソコンの画面を食い入るように見つめている石田の背中に声を掛ける。
「あ、お疲れっす」
石田が振り返る。自分の為だけに掛けられた声と向けられた笑み。それをいつものようにそっと心にとどめる。残業を労うフリをして石田の髪をくしゃりと撫でた。
「まだ残業?」
「そうなんすよ。今んなってM社が追加言って来てて見積もり作成し直しで……」
石田が人の良い笑みを少し情けなく崩して後頭部を掻く。
「マジ? M社は相変わらずだな」
石田と一緒にパソコンのディスプレイを覗き込む。キーボードに乗せられた石田の左手。嫌でも目に入って来るのは、薬指に嵌められた指輪。陣内はそっと目を伏せた。
「数字全部入れ直しか。お疲れ、頑張って」
「うっす」
石田の広い背中をぽふ、と軽く叩き、陣内はその場を離れた。オフィスを出て行く陣内の背を、石田がじっと見送っていた――。
2へ→
石田・陣内につきましてはこちら→コイゴコロヒトツ
坂崎・陣内につきましてはこちら→コイゴコロフタツ
↓よければポチっと押してクダサイ
書く意欲に繋がってますv
全ての件名をざっと見て、他のメールは週明けで良いだろうと判断した。陣内は坂崎からのメールだけを開いた。
本文:今日飲みに行きませんか
坂崎からメールで飲みに誘われたのは初めてだった。お互い存在は知っていれども他部署の関係。朝目が合えば挨拶する、その程度の間柄。一度身体を重ねてからも、それは変わらなかった。
今日は金曜日。他に予定もない。――断る物理的理由はない。
陣内は返信ボタンをクリックした。
件名:Re:坂崎です
本文:了解。20時まで前のドトールで待ってます。
陣内は送受信ボタンをクリックして、パソコンの電源を落とした。
「お疲れ。お先」
パソコンの画面を食い入るように見つめている石田の背中に声を掛ける。
「あ、お疲れっす」
石田が振り返る。自分の為だけに掛けられた声と向けられた笑み。それをいつものようにそっと心にとどめる。残業を労うフリをして石田の髪をくしゃりと撫でた。
「まだ残業?」
「そうなんすよ。今んなってM社が追加言って来てて見積もり作成し直しで……」
石田が人の良い笑みを少し情けなく崩して後頭部を掻く。
「マジ? M社は相変わらずだな」
石田と一緒にパソコンのディスプレイを覗き込む。キーボードに乗せられた石田の左手。嫌でも目に入って来るのは、薬指に嵌められた指輪。陣内はそっと目を伏せた。
「数字全部入れ直しか。お疲れ、頑張って」
「うっす」
石田の広い背中をぽふ、と軽く叩き、陣内はその場を離れた。オフィスを出て行く陣内の背を、石田がじっと見送っていた――。
2へ→
石田・陣内につきましてはこちら→コイゴコロヒトツ
坂崎・陣内につきましてはこちら→コイゴコロフタツ
↓よければポチっと押してクダサイ
書く意欲に繋がってますv
この記事のトラックバックURL
http://gerberahybridblog.blog.2nt.com/tb.php/195-26b1ba4b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック