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ただ、それだけ。(5)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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 ビジネスホテルの一室。いつの間にか泥酔に近い状態にまで飲んでいた野田を抱き抱えるようにして、飲む前にチェックインを済ませていた野田の部屋へと連れ帰ってきた。出張といえども会社から出る手当てには上限もあり、皆なるべく安いホテルに宿泊する。


ベッドが部屋の殆どを占める狭い空間。穂積は野田の上着を脱がせてハンガーに掛け、とりあえずベッドの縁に野田を座らせた。備え付けの簡易冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取り出して野田に手渡すと、野田は目に翳を宿したまま、黙ってそれを受け取った。

 ――今なら、付け込める。

 穂積の身体の奥から甘い囁きが聞こえる。その声に抗う理性は、今の穂積にはなかった。

「野田さん。さっきの話、もう少し聞いても良いですか」

 野田の隣に腰を下ろした。その僅かなベッドの揺れにも野田は身を支え切れない様子でグラグラと身体を揺らす。穂積は野田の背に手を回して、そっと彼を支えてやった。

「今までにその……弟さんの話は誰かにした事はあるんですか」

 甘く、優しく。怖がらせないように。

「いや……ない」

 覚束ない手つきでミネラルウォーターを呷り、口端から零れた水滴を手の甲で荒く拭って野田はふるふると首を横に振った。

「俺も俺の普段人には言えない嗜好を野田さんに言ってしまった事ですし。野田さんの話は誰にも口外しませんから」

 そして野田の疵を、野田自ら晒すよう仕向けて。それからそれを抉って。

「俺は、何も知らなくて、気付いてやれなくて……。俺の結婚式の日帰って来なかったのは、そういう事だったのかと、今更のように悔やまれて。いつだって弟の、歩にとって何が一番大切か、ただそれだけを考えてきたつもりだったのに……」

 想う相手の結婚。実の兄。

 帰りたくなくなって、ヤケを起こすのも無理はないか。

 野田の事だ。何も知らずに弟に優しくし続けてきたんだろう。

 ――罪作り。

 この言葉は、野田のためにあるような気さえした。



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