あの夏の日（１/５）

　歩と花火を見るために、人混みを二人で歩いていた。人波に揉まれた瞬間、歩が俺の手を取った。振り返った俺の視線が、歩のそれとかち合う。俺の心は、それだけで満たされて、それなのに切なく締め付けられた。そして俺はその想いを歩に伝えるように、歩の手をそっと握り返した。

　それから暫く、歩と俺は握った手を離す事なく、黙って歩いた。

　その時。

　――あれは。

　遠目に見た、穏やかな横顔。そのすぐ隣には、もう中年も後半に差し掛かった男が寄り添っている。歩しか見えない俺の視界にほんの一瞬、入り込んだその横顔は。









「巽、俺……先生ともうダメかも知んねー」
「……あ？　なんでだよ」

　殺風景な慎治の部屋。慎治は読んでいた雑誌を机に置いて対面に座る村上を見た。自分の吐いた煙草の煙が目に沁みて、慎治は目を眇めて身体で煙を避けた。

「てかお前何読んでんだよ」
「コレ？　『近代麻雀』」

　村上は呆れたように溜め息を吐いて慎治を睨み付けた。

「余裕だな。イイのかよ、明日物理。お前前回赤点だったろ」
「いんだよ。俺物理選択しねーし」
「世界史と現国は？」
「んー、ヨユー」
「そか……。今回も余裕っすか。なんか……ムカつくな」

　押さえるトコだけはちゃんと押さえてんだよなお前は、と村上は苦笑して、そしてまたふと表情に翳（かげ）を宿してノートに視線を落とした。

「……どした？　桑山とうまく行ってねーの？」

　机に置かれた灰皿に短くなった煙草をにじり消して、慎治は話を戻した。







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歩と花火を見に行った『夏の夜の夢』とリンクしてます。
よろしければ併せてお読みくだちぃ(*´∀｀)

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歩×慎治（高校生×リーマン）→（大学生×リーマン）


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