それからというもの、毎晩。何か理由をつけては、健一郎は玲の部屋を訪れる。
「実家から梨が送られてきたから」
「晩飯、作りすぎちゃって」
「DVDを借りてきました」
「パチンコに勝ちました」
そう言っては手にしていたものを玲に渡す。
そして言う。「好きです」と。
「実家から梨が送られてきたから」
「晩飯、作りすぎちゃって」
「DVDを借りてきました」
「パチンコに勝ちました」
そう言っては手にしていたものを玲に渡す。
そして言う。「好きです」と。
正直、もうどうしていいか玲にも分からなかった。奴の気持ちに応えることは、本当はできる。一度だけ抱き締められた、あの力強い腕に、もう一度抱かれたい、とすら思う。いや、それよりも以前、告白なんてされなくても、とうの昔に玲の気持ちは健一郎に傾いていた。
だが、どうすればいいのだ。
社内恋愛をあからさまに禁止する厳しい社風の会社。ましてや男同士である。知れるような事になったら、即左遷か、酷ければクビになるかもしれない。そうすれば同じ職場で働く事すらできなくなってしまう。何か、きっかけが必要だ。
何か。
「俺にどうしろ、ってんだよ……」
玲は片手で疲れた両目を覆った。
――ぴんぽーん。
来た。
ソファに身を預けたまま呆然としていた玲は慌てて起き上がり、玄関口へ出た。
「こんばんは」
もう見慣れた健一郎の笑顔に玲の心が緩む。
健一郎の手元を見ると、今夜は何も持っていない。とうとうネタが尽きたか。
「んで、今日は、何?」
極力追い返しやすいムードを作るのに苦心して玲が訊ねる。
「月を見ませんか?」
「は?」
「綺麗ですよ。今夜は中秋の名月です」
そう言って健一郎は玲の許可も得ず履いていた草履を脱ぎ、玲の手を取り部屋の奥の窓辺へと引っ張って行った。促されて窓の外を見ると、玲の目に眩しいくらいの金色の光が飛び込んできた。
「……ほんとだ……」
久々に見上げた月夜のあまりの美しさに吸い込まれそうになる。玲が空を食入るように眺めていると、ふと辺りが暗くなった。
「部屋を暗くした方が、もっとよく見えるでしょう?」
部屋の電気を消して健一郎が再び窓際へ戻ってきた。月の光が明るさを増し、室内を柔らかな光が包む。
「やっぱり……。思ったとおりだ……。山根さん、月の光に凄く映えますね。光に溶け込んでしまいそうなくらい」
「なんだ、おまえ、月見ておかしくなったのか?」
悪態をついて、健一郎を見た玲は思わず息を呑んだ。
――月の光に映えるのは、お前のほうじゃないのか。
健一郎の意外に彫の深い顔に落ちた影は、照らされた金色の光と相まって精悍な男の顔立ちを際立たせていた。いけない、と思いながらも玲は健一郎から目を逸らすことができなくなった。
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だが、どうすればいいのだ。
社内恋愛をあからさまに禁止する厳しい社風の会社。ましてや男同士である。知れるような事になったら、即左遷か、酷ければクビになるかもしれない。そうすれば同じ職場で働く事すらできなくなってしまう。何か、きっかけが必要だ。
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玲は片手で疲れた両目を覆った。
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来た。
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「こんばんは」
もう見慣れた健一郎の笑顔に玲の心が緩む。
健一郎の手元を見ると、今夜は何も持っていない。とうとうネタが尽きたか。
「んで、今日は、何?」
極力追い返しやすいムードを作るのに苦心して玲が訊ねる。
「月を見ませんか?」
「は?」
「綺麗ですよ。今夜は中秋の名月です」
そう言って健一郎は玲の許可も得ず履いていた草履を脱ぎ、玲の手を取り部屋の奥の窓辺へと引っ張って行った。促されて窓の外を見ると、玲の目に眩しいくらいの金色の光が飛び込んできた。
「……ほんとだ……」
久々に見上げた月夜のあまりの美しさに吸い込まれそうになる。玲が空を食入るように眺めていると、ふと辺りが暗くなった。
「部屋を暗くした方が、もっとよく見えるでしょう?」
部屋の電気を消して健一郎が再び窓際へ戻ってきた。月の光が明るさを増し、室内を柔らかな光が包む。
「やっぱり……。思ったとおりだ……。山根さん、月の光に凄く映えますね。光に溶け込んでしまいそうなくらい」
「なんだ、おまえ、月見ておかしくなったのか?」
悪態をついて、健一郎を見た玲は思わず息を呑んだ。
――月の光に映えるのは、お前のほうじゃないのか。
健一郎の意外に彫の深い顔に落ちた影は、照らされた金色の光と相まって精悍な男の顔立ちを際立たせていた。いけない、と思いながらも玲は健一郎から目を逸らすことができなくなった。
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