コイゴコロ、午後八時（12）（完)

　各々の課で最後にフロアを出る者は、自分の島の頭上の電灯を消す決まりになっている。二人きりになった広いオフィスは、坂崎の島の上の電灯だけが点っていて、二人を緩く照らしていた。

「石田からのメール、見ますか？」
「ん……」

　坂崎が閉じていたノートパソコンのディスプレイを開きながら陣内に問うと、静かに陣内が頷いた。





「……なるほどね。セーイチらしい」

　坂崎のパソコンで石田からのメールを読んだ陣内は、遠くシンガポールの彼を思っているのだろう、遠くを見るように目を細めて微笑を浮かべた。彼を思う陣内の様子にまた、坂崎の胸の奥が僅かの不安にチクリと痛む。

「返信、しよっか」

　少し悪戯に笑い、陣内は坂崎の椅子に腰を下ろして本格的にメールの返信を打つ体勢になった。


件名：Re：元気か？

本文：陣内です。今誰もいなくなったフロアに坂崎といます。
　　　二人とも元気だよ。
　　　セーイチも元気そうで良かった。
　　　新天地に行ってまで色々心配ありがとう。
　　　俺と坂崎なら、大丈夫です。
　　　一時帰国の際はぜひまた三人で飲もう。
　　　(惚気たらごめん)
　　　赴任期間はまだあるけど、
　　　体壊さないように頑張れな。

ＰＳ．セーイチからのメールは良い刺激になったよ(意味深)
　　　坂崎に代わってありがとうと言っておくよ(笑)



「こんな感じ、かな」

　送信っと、と呟いて陣内は送信ボタンを押した。電源落とすよ、と言い置いてパソコンを落とした陣内は、満足したような笑みを浮かべ、横で見ていた坂崎に振り返った。

「陣内さん……」

　敵わないなもう、とため息のような息を吐きながら陣内の腕を引き、坂崎は陣内を抱き締めた。

「陣内さん、大好きです……」
「ん……俺もだよ、坂崎……」

　坂崎を抱き締め返す陣内の優しい腕に、坂崎は、この腕の中の愛しい人は、自分の恋人なんだと、痛い程に実感した。



「――こんな感じならここでもできそうですね」

　抱き締める腕をようやく緩めて、坂崎が言った。

「何を？」

　ぽつんと二人、広くて薄暗いオフィス。坂崎は周りを見渡して、陣内に笑いかけた。

「……セックス」
「……バカ」
「すいません」

　調子に乗り過ぎたかと、ほんの少ししょんぼり反省した様子の坂崎に、陣内はふと表情を緩めた。

「しばらく様子見してみないと」

　陣内は上目遣いで笑いながら、坂崎のネクタイをぐい、と引いた。

　まずはキスから、と甘く囁いて、陣内はそっと、唇を重ねた。






おしまい




←11へ
←１から読む
石田・陣内・坂崎についてはコチラ→『コイゴコロ』




にほんブログ村

↑ランキング参加中す。よければポチっと押してクダサイ
書く意欲に繋がってます。



短いような長い間のエロ、お付き合いまりがとんございますた＼(^o^)／
明日からまたまったり新しい話し始めますのでそちらもぜひお付き合いいただければ……゜+.゜.(⊃Д｀*)゜+.゜