音楽室からピアノの音が聞こえる。単音で響く音に、和大は少しの違和感を覚えた。
そっと、音楽室のスライドドアを開け、中へ入る。いつものように靴を脱ぎ、しんと冷えたカーペットを踏み締めて教室の右前方に置いてあるピアノに近付く。いつもと違う空気。ピアノの前に座っていたのは、数学教師の河辺だった。
そっと、音楽室のスライドドアを開け、中へ入る。いつものように靴を脱ぎ、しんと冷えたカーペットを踏み締めて教室の右前方に置いてあるピアノに近付く。いつもと違う空気。ピアノの前に座っていたのは、数学教師の河辺だった。
河辺は二年生の担当ゆえ和大は彼の授業を受けた事はなかったが、彼の授業センス以上にその容貌から、一年生である和大のクラスの女子からもその名は頻繁に聞く事があった。
和大の気配に気付いた河辺は顔を上げ、にやりと含ませたような笑みを浮かべた。
――俺を待ってた?
その笑みに返って警戒心を煽られる。和大は表情を僅かに強張らせ、身構えた。
「ナツメ?」
「――あー、はい」
二人で話すには少し遠いとも言える距離で和大が立ち止まる。その距離に河辺が笑ったが、和大は黙ったまま河辺を見据えた。
「ナツメなら今日はいねぇよ。火元責任者の会合。名ばかりの肩書きだけど出ないとなんねんだよね、ああいうのって」
「そ、すか。なら俺は」
ナツメ以外に用はない。和大はくるりと河辺に背を向けた。
「独占欲、そそられるだろ?」
それを引き止めるように、河辺が言葉を投げた。和大は少し、気怠さを装って振り返り、河辺に視線を戻した。
「でもな、ナツメはお前の手に負えるような相手じゃねぇよ」
「どう言う事すか?」
「ナツメは誰のものにもなるけど、誰のものにもなれねんだよ」
河辺の言葉の意味を計りかねて、和大は小さく眉を寄せた。
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和大の気配に気付いた河辺は顔を上げ、にやりと含ませたような笑みを浮かべた。
――俺を待ってた?
その笑みに返って警戒心を煽られる。和大は表情を僅かに強張らせ、身構えた。
「ナツメ?」
「――あー、はい」
二人で話すには少し遠いとも言える距離で和大が立ち止まる。その距離に河辺が笑ったが、和大は黙ったまま河辺を見据えた。
「ナツメなら今日はいねぇよ。火元責任者の会合。名ばかりの肩書きだけど出ないとなんねんだよね、ああいうのって」
「そ、すか。なら俺は」
ナツメ以外に用はない。和大はくるりと河辺に背を向けた。
「独占欲、そそられるだろ?」
それを引き止めるように、河辺が言葉を投げた。和大は少し、気怠さを装って振り返り、河辺に視線を戻した。
「でもな、ナツメはお前の手に負えるような相手じゃねぇよ」
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