瞳を閉じればあなたが、まぶたのうらにいることで（５）

「――野本」
「ん？」
「俺、夏休みに引っ越した、って言ってただろ？」
「ああうん、実家出たんだよな？」

　野本は突然の話題に僅かに戸惑いを見せたが、それでも歩が何かを話したことにほっとしたように眉を上げて続きを促した。

「それ、恋人と暮らすためなんだ」
「……、……そっか。でもそだよな、いても全然おかしくねぇし。お前そういう話全然しねぇんだもん。今度その一部始終聞かせろよ？」

　一瞬の沈黙ののち、野本が明るく返す。けれどもその様子はどこか痛々しい。歩にだって分かる。野本が感情を抑えているとうことが。

「……野本」
「同棲相手、どんな人？　ひょっとしてお前、スゲェメンクイだろ？　それとも……」
「野本」

　明るく続ける野本の言葉を、歩は静かに遮った。

「……、……なんだよ」
「その人ね、男」
「――え」
「だから全然引かねぇし、……分かるよ」

　――野本がどれだけの気持ちで俺に、好きだと言ってくれたのか。それを言うのにどれだけの勇気が要るか。……分かるよ。

「……そっか」
「野本さえよければ、これからも俺と友達で……いて欲しい」
「それって普通俺のセリフじゃねぇ？　つかそれ俺が用意してたセリフなんだけど」
「ん……そっか」

　――ありがと、野本……。

　歩がほっとしたように笑うと、野本は僅かに寂しさを堪えたような、けれどもどこかすっきりしたような表情で笑った。







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歩×慎治




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