偏愛エレジー（82）

　梁瀬は位織を窘めるように軽く睨み付け、そして位織がまた謝ってしまわないうちにと思ったのだろう、その表情をすぐに笑みへと戻した。

「竹内とヤれなかったのは残念な気もすっけど、それで良かったと思ってるよ。おかげで同期で同僚の、友人のままでいられる」

　よな？　と同意を求められ、位織はうん、と頷き応えた。梁瀬はごく穏やかな笑みで、位織を見つめた。

「竹内が元気そうなら俺はそれでいんだよ。今日の竹内、スゲェ幸せそう、っつか、満たされてるってオーラ、出てるし。――そんなとこにそんなの付けたりしてな」
「え？」
「右の、うなじの下辺り」

　少し悪戯っぽくも見える笑みを浮かべた梁瀬に顎で指し示し言われ、その箇所に手をやると、夕べ尚大にそこを強く吸い上げられた記憶がよみがえった。思わず顔を赤らめた位織に、梁瀬はご馳走さま、と苦笑してみせた。

「マジでそろそろ食えって。時間なくなっちまうよ。旨いんだから全部食えよ？」
「……ん」

　――ありがとう、梁瀬……。

　想う相手の幸せを、自分の幸せを差し置いて笑って受け入れることができる梁瀬が、酷く眩しい存在のように思えた。それがどれほど難しいことなのか、位織は痛い程よく知っている。

　梁瀬ならきっと、もっと相応しい相手と幸せになることができる。そうであって欲しいと心で願いながら、位織は再び箸を手にした。

　今梁瀬が食べていた生麩を位織も口に運ぶ。あ、旨い……、と呟くように言うと、梁瀬は少し眩しそうに位織を見つめ、だろ？　と笑った。





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尚大×位織

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生麩、好きです(*´∀｀)