誰もがきっと、誰かの。（11）

　けれども七月はその条件にはあっさり首を横に振り、独立の話だけを飲んだ。その裏には七月が、誰にも語ることなく密かにずっと想い続けていた双子の弟と、ついに想いを通じ合うことができたという経緯があった。

　事務所を立ち上げておよそ半年。

　以前在籍していた会社から独立のご祝儀にと分けてもらったクライアントに加え、少しずつ顧客も増えてきていた。

　まだ起こしたばかりの会社、もらった依頼は全て受けてきた。

　貴史から独立を誘った手前、七月には以前と変わらない収入を安定して確保してやりたかった。けれども共同経営者として名を連ねる以上、七月にだけ多く利益を分配することに関しては、七月がそれを拒んだ。

　会社として軌道に乗るまでと、七月も黙々と受けた仕事をこなしてくれている。

　断ることなく受けた仕事、少し無理をして詰め込んでいたのは分かっていた。

　続いた締め切り。少ない睡眠の中、二人だけで行ってきたチェック。

　校正ミスが出た。

　通販会社のキャンペーンカタログでのトップページ、一押し商品の価格に間違いがあった。

　要するに、単純なミス。

　急な仕事だったため、印刷会社のスケジュールに割って入る形で無理を聞いてもらった分、色校の段階を省かれた。

　刷り上がってから先方からの指摘でそれが分かった時には、最終納品日まであと二日しかなかった。


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