「俺って魅力、ねぇかなぁ……」
「どしたの、急に」
時刻は午後7時過ぎ。帰るね、と立ち上がった七月に、貴史はデスクに突っ伏したまま呟くようにぼそりと言葉を零した。
七月の弟がまた明日から撮影旅行に同行すると聞いている。だから引き止めるつもりはなかったのだが、幸せそうな彼を見ていると思わず己を顧みて愚痴のようにぼやいてしまった。
「どしたの、急に」
時刻は午後7時過ぎ。帰るね、と立ち上がった七月に、貴史はデスクに突っ伏したまま呟くようにぼそりと言葉を零した。
七月の弟がまた明日から撮影旅行に同行すると聞いている。だから引き止めるつもりはなかったのだが、幸せそうな彼を見ていると思わず己を顧みて愚痴のようにぼやいてしまった。
実は今日も、事務所に来る前、件のスポーツジムに寄ってきた。
基本定時のない二人きりの会社だから詰めた仕事がなければ出社時刻は自由だ。今日も先日と同じ午前十一時、彼を見つけた貴史は、カウンター前で彼の横に並んだ。けれども彼は今日もまた、搾り出すような鉄壁の笑みと共に、貴史にウェアの貸与を勧めた。
要するに、貴史が先日話をした相手だとは、全く認識されていなかった。
「お前にもあっさりフラれっし、それに……」
――彼にも俺の色目、全く通じなかったし。
デスクに突っ伏したまま、はぁ、とため息を吐く。
「貴史お前俺のこと、好きだったの」
傍らまでやって来た七月が、初めて知ったと言うような意外そうな表情で、身体を折って貴史を覗き込んだ。貴史は不貞た表情のまま、その目をじっと見た。
暫しの沈黙が二人を包む。
「……なんだよそれ。俺一人に絞れよ、って独立前に言ったじゃねぇかよ」
通じていなかったのかと、今更ながらに気が滅入る。貴史は気怠く身体を起こし、机上の煙草に手を掛けた。
「んー……好きだって、聞いてないよ。それに」
「あ?」
取り出した一本を咥え、火を点けた。己の色気のなさを聞かされるのかと、唇を尖らせて肩を竦めた。
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基本定時のない二人きりの会社だから詰めた仕事がなければ出社時刻は自由だ。今日も先日と同じ午前十一時、彼を見つけた貴史は、カウンター前で彼の横に並んだ。けれども彼は今日もまた、搾り出すような鉄壁の笑みと共に、貴史にウェアの貸与を勧めた。
要するに、貴史が先日話をした相手だとは、全く認識されていなかった。
「お前にもあっさりフラれっし、それに……」
――彼にも俺の色目、全く通じなかったし。
デスクに突っ伏したまま、はぁ、とため息を吐く。
「貴史お前俺のこと、好きだったの」
傍らまでやって来た七月が、初めて知ったと言うような意外そうな表情で、身体を折って貴史を覗き込んだ。貴史は不貞た表情のまま、その目をじっと見た。
暫しの沈黙が二人を包む。
「……なんだよそれ。俺一人に絞れよ、って独立前に言ったじゃねぇかよ」
通じていなかったのかと、今更ながらに気が滅入る。貴史は気怠く身体を起こし、机上の煙草に手を掛けた。
「んー……好きだって、聞いてないよ。それに」
「あ?」
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