「兄弟は……?」
「俺、一人っ子なんだよね」
左手で手際良くフライパンを振り、右の手に持ったターナーで緩く卵をかき混ぜながら、貴史はさらりと答えた。
両親は共に他界。
兄弟もない。
この広い家に一人。
貴史の孤独を思うと、胸が痛んだ。
「俺、一人っ子なんだよね」
左手で手際良くフライパンを振り、右の手に持ったターナーで緩く卵をかき混ぜながら、貴史はさらりと答えた。
両親は共に他界。
兄弟もない。
この広い家に一人。
貴史の孤独を思うと、胸が痛んだ。
こんな時は、言い難い事を聞いてしまったことに対してなのか、あるいは悲しいことを思い出させてしまったことに対してなのか、とにかく『ごめん』と謝るのが普通なのかも知れない。けれどもその言葉はどこかありきたりにも思えて、生は言葉を詰まらせた。
「生は? 両親健在?」
脇に置いていた牛乳を卵の上にほんの少し垂らし、貴史が横目で生に軽い口調で問いかける。
「……うん」
「そっか」
「……、……」
「――この年になったら両親いないって奴、結構いるもんだよ。高校生っつったらもう母親の愛情が絶対要るような年でもねぇし、実際当時の俺は、恋人できねぇかなとか、セックスしてぇなとか、そんなことばっか考えてたし。ここを遺してくれたおかげでこの家にだって共益費だけで住めてる。それに、この先長く生きてても、俺が親を喜ばせてやれることもあんまねぇだろうし。……孫とかさ」
生の気持ちを知ってか知らずか、同情は要らないとでも言うように、貴史は笑って肩を竦めた。
レンジの火を消した貴史は、また煙草をくわえ、そして少し離れて立つ生に背を向けて、食器棚から取り出した皿に出来上がったスクランブルエッグを移した。
いつも考えていることなのか、人に言い慣れていることなのか。
流れるように語られた貴史の言葉は、けれども生に向けられたその背が、貴史の言葉に含まれる諦めのようなものを、生に語っているようだった。
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「……、……」
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いつも考えていることなのか、人に言い慣れていることなのか。
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