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誰もがきっと、誰かの。(56)

BL好きが書いた自作小説を短編・シリーズでぼちぼちアップしています。年下攻率高し。 18禁。
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「貴史、料理すごく手早いね。ごめん僕、何も手伝わなくて」

 品数は多くはないが、二人で会話をしている少しの間に出来上がった朝食。なにより貴史自ら腕を振るった絶妙の半熟加減のスクランブルエッグが、とろりと生(いくる)の食欲をそそる。

 見ているだけで何も手伝えなかった生は並んだ食器を前に、恐縮しつつ貴史を見た。

「横で見ててくれたじゃん。卵は俺、学生ん時ファミレスの厨房でバイトしてたから。朝入ったらモーニングのスクランブル延々焼くんだよ。だからスクランブルには割と自信あんだよね。食ってみて」

 貴史は両肘をテーブルに突き、変わらない穏やかな笑みを生に向けた。

「うん、ありがとう……」

 いただきます、とスプーンに手をかけようとしたその手を、貴史に取られた。

「その前に生」

 繋がった手。触れ合ったところが、夕べの熱を思い出して心臓が跳ねる。

 落ち着こうと唾を飲み込むと、コクリと、恥ずかしくなる程に大きな音がした。

「……、……なに、どしたの?」

 こんなことでどぎまぎするような年でもないのに、と苦笑しながら、小さく眉を上げて貴史に続きを促した。

「またキス、してぇんだけど。いい?」
「……、ん」


  思わぬ貴史の申し出にまた、心臓が跳ねた。小さく頷いたが、貴史と目を合わせられなくて、貴史の胸元辺りに視線を落とすと、貴史の手が伸びてきて、すっと、生から眼鏡を取った。

 視界がぼやけたおかげでやっと、貴史に視線を向けることができる。じっと貴史を見つめると、貴史が少し困ったようにも見える表情で笑った。



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