誰もがきっと、誰かの。（67）

　片思いをしているということは、少なくとも昨日今日の話ではないだろう。昨日出逢ったばかりの自分など、その対象であるはずがない。

　夕べから今までの間に、貴史に掛けられた言葉を思い返す。

　生を癒やし、勇気づけた言葉の数々。

　心も身体も全て、貴史に包まれて。

　幸せだと、思った。

　もしかしたら二人、想い合っているのかとさえ思った。

　でもそれも、結局はその場限りのことだったのかと、生は目を伏せた。

　――そんな奇跡みたいな話、ない、か。

　それでも、貴史には感謝の気持ちを持とう。

　少なくとも、夕べ貴史は全力で生を元気付けようとしてくれた。

　貴史が抱いたのは、彼の想い人ではなかったというのに。

「どうぞ？」

　黙り込んでしまった生を覗き込むように、七月から生の皿にも一切れ取り分けられると、生ははっとしたようにありがとう、と小さく頭を下げた。

「なにしに来たんだよ七月？」

　マグカップを二つ携えて、貴史が二人に割って入った。先ほどと同じ生の斜め前に座り、マグの一つをはい、と生に渡してから、斜に構え直して七月を見た。

「今朝からまた七斗が撮影旅行に行っちゃったんだよね。少しすると慣れてくるんだけど、いなくなってすぐって、寂しいっしょ」

　食べてね、と二人に勧め、七月は一人、ピザに齧り付いた。糸を引くチーズを指先で絡め取り、その指を舐める七月の仕草が酷く艶めかしい。その姿と纏う空気に、生は綺麗な人だな、と思った。



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