十二月二四日、夜八時（３）

「なんだよ？」

　俺の視線に気付いて慎治さんが問い掛ける。俺はいつでも黙っているのに、慎治さんはそれを聞いて来る時と来ない時がある。このタイミングの絶妙さも慎治さんの凄い所だと思う。俺はいくら経験を積んでも、ニ七歳になって慎治さんみたいにできるか、っていうとできそうにない。

「そろそろ満腹かな」
「ケーキ、食う？」

　慎治さんはどう思っているんだろう。料理はどれも本当に旨かったけど、今日のメインは食べ物じゃない。早く……ベッドに行きたいと思ってるのは俺だけ？　むしろ慎治さんは後延ばししようとしてる風にさえ見える。

「明日……にしよ？」
「そっか、そだな。んじゃコレ」

　慎治さんがソファの脇からプレゼントの包みを取り出して俺に手渡した。

「あ……」

　受け取って呆然とする俺に早く開けろよ、と慎治さんが笑って促す。

　包みを俺なりに丁寧に解くと、中から出て来たのはマフラーと手袋だった。どちらも濃紺一色で、マフラーの端っこにだけ、ごく小さくブランドのタグがついていた。

「いいオトコにはシンプルが一番だろ？」

　俺の考えてる事を見透かしたような事を言いながら、慎治さんが俺にそのマフラーを巻き付ける。

「お前普段薄着過ぎだからさ。ちょっとは暖かくしろよ」

　そう言って慎治さんは俺の両肩をぽふぽふ叩き、満足そうな極上の笑顔で俺を見た。

「ありがと……」

　それ以外何を言えば良いのか分からなくて、けれども勝手に身体が動いた。気付いたら俺は慎治さんを抱き締めていた。

「似合ってるよ。俺が見立てたんだしな」

　冗談口調で笑って慎治さんが俺を抱き締め返す。俺の背に回された慎治さんの腕。背を優しく叩かれて、どくん、と心臓が音を立てた。

「慎治さん……ベッド行こうよ」
「でもお前……」
「分かってるよ。俺から言ったんじゃん」

　いつもは俺が慎治さんに挿れてる。慎治さんが動き渋ってる理由。今日、俺が初めて慎治さんに、抱かれるから。



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