コイゴコロヒトツ+ヒトツ（３）

「マジすか、やった」

　坂崎が小声でごく小さくガッツポーズを取る。

「坂崎そういうキャラだったんだ」

　陣内が笑うと、坂崎はすいません、と隠し切れない嬉しさを滲ませた笑顔で拳に握ったその手を解いた。




　最寄りのコンビニまでタクシーに乗り、適当に選んだ乾き物とビールを数本買い込んだ。そこからの短い距離。二人は歩いて陣内の部屋へと向かった。

　部屋に入ると、室内をもの珍しそうに見回す坂崎に着ているものを掛けるようにとハンガーを渡し、自分は部屋着に着替えた。坂崎は外したネクタイを上着のポケットに突っ込んで、上着をハンガーに掛けた。そのハンガーをカーテンレールに掛けてから、坂崎はワイシャツの第一ボタンを外して床に座った。

「綺麗にしてるんすね」

　机を挟んで対面に腰を下ろした陣内に、袋から取り出したビール缶のプルをプシュ、と音を立てて開けながら坂崎が話し掛けた。その缶が、はい、と陣内に手渡される。陣内はその動きの自然さに少し当惑しながらも、ありがと、とそれ受け取った。

「ものが少ないだけだよ」

　苦笑して、肩を竦めてみせる。

　一人暮らしになってから引っ越しは大学在学時、三年から校舎が変わる際に一度。社会人になって独身寮に入るのに一度。五年満期で退寮を余儀なくされてここに移るのに一度。

　頻繁な方ではないし、特に引っ越しが好きな訳でもない。けれども全国規模の陣内の会社はいつ転勤を言い渡されるか分からない。そう思うと部屋には必要最低限の家具と家電、あとは気に入った何冊かの本と何枚かのＣＤくらいしか部屋に置いておく気にはならなかった。

　テレビを点けて、二人でビールを飲みながらスポーツニュースを見る。来シーズンのプロ野球の順位を予想して、二人同じ球団が好きだと知った坂崎が今度一緒に試合を観に行きましょう、と嬉しそうに誘ったので、陣内は笑って頷いた。





←２へ戻る　・　４へ進む→
1から読む→


石田・陣内につきましてはこちら→コイゴコロヒトツ
坂崎・陣内につきましてはこちら→コイゴコロフタツ


↓よければポチっと押してクダサイ
　 書く意欲に繋がってますｖ