コイゴコロヒトツ+ヒトツ（４）

「俺と、付き合いませんか」

　坂崎が、真っ直ぐに陣内を見詰めて言った。

「と……唐突、だな……」
「すいません、陣内さんにとっては唐突すよね。でも俺今日陣内さんが誘いに乗ってくれたら、言おうと思ってたんです」

　緊張しているのか、坂崎が一度、唇を舐めた。陣内はどう返せば良いのか分からずに、ただ坂崎を見詰め返してその瞳を揺らした。

「俺は――」
「陣内さんが、石田のことを好きなのは分かってます」

　答えに窮する陣内の言葉を代弁するように、坂崎が言葉を重ねる。

「じゃあどうして……」
「石田を想ってるだけじゃ、満たされないでしょう？　俺なら……少なくとも身体は……」

　途中で言い淀んで、坂崎が俯いた。

「いや、俺が陣内さんの事諦めらんねぇだけです」

　坂崎は、自嘲にも似た笑みを浮かべた。

　坂崎の笑みが、陣内の胸を刺す。この笑みは、これまで陣内も何度も一人浮かべてきた笑みだ。

　坂崎の気持ちは知っていた。今日部屋に坂崎を誘ったのは。

　――自分の人肌恋しさを満たすために、坂崎の気持ちを利用できる、と思ったから……？

「返事は、すぐでなくてもイイです。俺の事、一番好きでなくてもイイですから」

　陣内が答えに困ったと思ったのか、坂崎が明るい声でそう言って陣内に笑いかけた。

「陣内さん、そっち行ってイイすか？　電車なくなっちゃったんで。俺泊まってってイイんすよね？」

　陣内の返事を待たずに、坂崎が陣内の隣に座り直す。坂崎は陣内の手の中で温（ぬる）くなってしまっていた缶を取り上げて、そっと机に置いた。

　机から陣内に視線を戻した坂崎と目が合う。坂崎の笑みに釣られたように、陣内もぎこちなく笑みを浮かべた。どちらからともなく顔を寄せ合い、静かに唇を重ねた。

「俺は、ずるい」

　坂崎の唇が去って行って、陣内がぽつりと呟いた。

「――え？」
「俺は、お前の気持ちを知ってて、お前を部屋に呼んだんだ」
「いいんです俺は。どんな形ででも、陣内さんに触れる事が許されるなら」

　だから、と懇願するように坂崎が陣内を抱き締めてきた。流れてくる坂崎の体温が陣内の心を揺らす。抱き締める腕の心地良さにクラクラして、陣内は坂崎の背に自ら腕を回した。





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