コイゴコロヒトツ+ヒトツ（25）

「陣内さんから何も聞いてねぇんだな。お前何か誤解してるだろ」
「何がだよ？　陣内さんがお前の事どう思ってるかは俺の方がお前よりずっと前から知ってんだよ」

　腹立ち紛れに石田に向かって煙を吐く。煙の向こうで石田がやれやれ、といった表情で肩を竦める。

「俺陣内さんにフラれた」
「――――は？」

　今聞いた言葉の意味が理解できない。目を瞬かせ、真意を確かめるべく石田を見直した。

「フラれた。陣内さんに」
「お前が？　嘘だろなんで……？」

　――陣内さんはあんなにいつもお前の事を見てたのに？

　容易に信じがたい言葉に思考が止まりそうになる。

「お前と陣内さんに分かって俺には分からないモノがある、そうだ」

　心当たりあるだろ？　と言いたげな視線を坂崎に向ける。同じ嗜好を持つ者同士、という事なんだろうか。確かに陣内は石田がノンケだから辛い思いをしていたのだが。

「そりゃお前……結婚とかしてっからだろ」
「したんだけどな、離婚」
「え？」
「ヤバい、っつってただろ？」
「マジかよ……」

　尚更石田がフラれた理由が分からない。何にも縛られなくなった石田なら陣内ももう何も迷う必要はないのに。頭の中が疑問符だらけになる。

「元々押し切られてした結婚だったから、言われて別れるのも特に躊躇なかったよ。陣内さんの事もあったし逆に良い機会だな、って思ったくらいだしな」

「お前それ……陣内さんに」

「言いそびれちまった。陣内さんにはまぁ……色々お世話になったってのもあって。遅かれ早かれ陣内さんの耳にも入る事にはなるんだろうけど」

「陣内さんに言ってたら違ったかも知んねぇのに……」

「いや、そんな感じが……あればもう少し食い下がったんだけどな。誰かの事ばっか考えてるような感じだったし。お前今日陣内さん見てねぇだろ。心ココにあらずって感じで……客に送るメール俺に送ったり、出したばっかの見積もり持ってシュレッダーの前立ったり……なんかボロボロだったよ。……お前と同じように」

　いい加減分かれよ、とでも言いたげに石田が坂崎を見る。

　――陣内さんが俺と同じようにボロボロ？　どうして……まさか、俺？　陣内さんは石田を振って俺を選んでくれたのか？　夕べの電話は、俺にそれを言おうと……？　それなのに俺は夕べ、せっかく掛かってきた陣内さんからの電話を話も聞かずに一方的に切った。

　――大変だ。

「石田俺……帰るわ」
「おう。そうしろって」

　半分以上長さを残した煙草を急いた仕種でにじり消し、坂崎は立ち上がった。石田を見下ろす。緩く煙を吐きながら片頬を上げて笑う石田の肩にぽん、と手を置くと、坂崎は石田を残して喫煙室を出て行った。




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