コイゴコロヒトツ+ヒトツ（24）

　石田と出て行った後しばらくして戻ってきた陣内の表情が目に焼き付いている。少し紅潮した頬。どこか申し訳なさそうに坂崎を見た。

　 ――まさかどこかでヤっちまってたり……？

「良かったじゃねーかよな陣内さん……」

　無理して空気に乗せた言葉は、壁に乱反射した後全て坂崎目がけて跳ね返り、時間差で坂崎を突き刺した。

　明日はまた金曜日。石田が行動にさえ出てなければ、素知らぬ顔で陣内の部屋へ行くつもりだった。けれども拒絶されるのが容易に想像つく今、それを分かってて出向く程坂崎に自虐嗜好はない。

「明日は久々にツレと飲むかな……」

　二本目のビールのプルを引き開けて、数名の悪友たちの顔ぶれを思い浮かべながら携帯のアドレスを繰る。その時手の中の携帯が着信で震えた。一緒に陣内専用の着メロ音が鳴る。数秒迷って、躊躇いながらも通話ボタンを押した。

「……はい」
『あ、……坂崎。陣内だけど』
「……はい」
『明日は……来れる？』
「陣内さん、今日石田にはやっぱ……告られたんすよね？」
『…………ん、うん……。その事で、ちょっと』

　――決定打だ。もう充分だ。はっきりとした言葉なんか、要らない。

「俺明日ツレと飲み行くんすよね。だから……行けません」
『そ、か……』
「陣内さんありがとうございました。じゃあ」
『坂崎……』

　何か言いたげな陣内の言葉を無視して坂崎は一方的に電話切った。そのまま電源を落として床に転がした。

「あークソっ、やっぱビールじゃ酔わねぇ……」

　自分の用意の良さに自嘲しながら、坂崎はビールと一緒に買って帰ったボンベイサファイアに手を伸ばした。



　翌日は当然最悪だった。二日酔いで痛む頭を抱えて一日を過ごした坂崎は、ダラダラ仕事をこなしたおかげで残った仕事を終業時刻が過ぎてもダラダラ片付けていた。陣内の方へは、視線を向けないようにしていた。元々社内で話す事などなかった。意識しているのは坂崎だけで、きっと誰も坂崎の視線の変化には気付いていない。

「坂崎、ちょっと行かねぇ？」

　腐った思考に割り込んできたのは、石田の声だった。億劫そうに顔を上げると、石田が苦笑しながら立てた二本指を唇に宛てた喫煙のゼスチュアで坂崎を喫煙室へと誘っていた。



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